コラム

習近平が振り回す「絶対権力」の危うさ

2016年02月26日(金)17時20分
習近平が振り回す「絶対権力」の危うさ

 2016年が始まると、中国の経済・政治はますます「非正常」な状態に陥った。上海と深センの株価は猛スピードで続落し、外貨準備は記録的な量が国外に流出した。毎年春節前夜に放送されるCCTV(中国中央電視台)の番組「春節聯歓晩会」は、最も共産党イデオロギー宣伝色の濃い中身だった、と視聴者に批判された。先日、習近平はCCTVと人民日報、新華社の3社を視察し、こう強調した。

「党のニュース・世論監督業務は党の原則を堅持しなければならない。最も根本的なのは、ニュース・世論監督業務における党の指導性を守ることだ。党・政府のメディアは党と政府の宣伝のための陣地であり、党の子供でなければならない。党メディアのあらゆる業務は党の意志を体現し、党の主張を反映し、党中央の権威を守り、党の団結を守り、党を愛し、党そのものを守り、党のためにならなければならない」。

 CCTVは習近平を迎える際、局に掲げた看板の上に「CCTVは党の子供、絶対的に忠誠を誓う、検閲をお願いする」という標語を書いた。この直前の2015年末、習近平は軍の機関紙である解放軍報を視察した際、「軍報は党の子供であり続ける」という指示を出していた。

 今回の「メディアは党の子供」キャンペーンは後にも前例がないほど大規模だ。その後間もなく、官制メディアは中国に大量に存在する壁と門に囲まれた閉鎖型住宅街の壁を打ち破り、開放型住宅街に変えることで交通渋滞はなくなる、という報道を始めた。この「サイン」は大きな反発を引き起こした。なぜなら中国の中産階級は治安面などを考慮して、ますます閉鎖型住宅街を購入する傾向にあるからだ。こういったコミュニティーは道路など公共設備の建設を自ら負担し、治安管理や緑化や公共活動用施設の建設も自分たちで行うので、住宅価格が通常の開放型住宅街に比べてかなり高くなる。政府は壁を壊す準備を進めているが、これは所有者の私有財産権を侵害すると同時に、中国の「物権法」にも違反する。

 まだ議論の冷めやらない中、中国の最高裁は先日、閉鎖型住宅街は古い時代の産物であり、所有者の権利の保障については「立法によって合法化する過程にある」との司法解釈を示した。最高裁のこの力強い援護射撃ぶりを見て、ネットユーザーは「国外に三権分立あり、中国に三権協力あり」と皮肉った。

 中国メディアは一貫して共産党の宣伝道具だった。人民解放軍はその創設時からずっと国家の軍隊でなく党の軍隊であり、司法も独立したことはない。警察は党の治安維持の道具で、教育、医療、金融、国営企業など中国のあらゆる重要部門はすべて共産党の指揮に従わなければならない。

 習近平が統治する中国で、メディアは完全に臣下として屈服するほかなく、いかなる法律もすべて滞りなく実行される。習近平に反対する大胆な者は全員、警察によって口を閉じさせられる。このような絶対的権力は、安倍首相の目にうらやましく映るかもしれない。しかし中国国民と中国社会は痛ましい代価を払っている。独裁者も、彼自身の行為のためにいずれ代価を払うだろう。

<次ページに中国語原文>

プロフィール

辣椒(ラージャオ、王立銘)

風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送っている。

ニュース速報

ビジネス

米国株式市場は反落、金融株の勢い止まる

ビジネス

ドル下落、雇用統計受け利上げペースに疑問=NY市場

ビジネス

トランプ氏が雇用創出諮問委、委員に米主要企業のトッ

ワールド

ロシアの原油生産が記録的水準、約束の減産控え

MAGAZINE

特集:トランプ時代の国際情勢

2016-12・ 6号(11/29発売)

トランプ次期米大統領が導く「新秩序」は世界を新たな繁栄に導くのか、混乱に陥れるのか

人気ランキング

  • 1

    内モンゴル自治区の民主化団体が東京で連帯組織を結成した理由

  • 2

    イギリス空軍、日本派遣の戦闘機を南シナ海へ 20年には空母も

  • 3

    東京は泊まりやすい? 一番の不満は「値段」じゃなかった

  • 4

    プーチン年次教書「世界の中心で影響力」を発揮する

  • 5

    「3.9+5.1=9.0」が、どうして減点になるのか?

  • 6

    トランプの外交政策は孤立主義か拡張主義か

  • 7

    百田尚樹氏の発言は本当に”ヘイトスピーチ”なのか?…

  • 8

    イタリア政府、憲法改正国民投票を12月4日実施 首相…

  • 9

    新卒採用で人生が決まる、日本は「希望格差」の国

  • 10

    タイ新国王が即位しても政情不安は解消されない

  • 1

    「3.9+5.1=9.0」が、どうして減点になるのか?

  • 2

    スラバヤ沖海戦で沈没の連合軍軍艦が消えた 海底から資源業者が勝手に回収か

  • 3

    悪名高き軍がミャンマーで復活

  • 4

    新卒採用で人生が決まる、日本は「希望格差」の国

  • 5

    トランプも南シナ海の「主導権」追求へ 中国政府系…

  • 6

    バルト3国発、第3次大戦を画策するプーチン──その時…

  • 7

    偽ニュース問題、米大統領選は始まりに過ぎない?

  • 8

    東京は泊まりやすい? 一番の不満は「値段」じゃな…

  • 9

    「ドイツ版CIA」の情報部員はISISのスパイだ…

  • 10

    イタリア政府、憲法改正国民投票を12月4日実施 首相…

  • 1

    トランプファミリーの異常な「セレブ」生活

  • 2

    68年ぶりの超特大スーパームーン、11月14日に:気になる大地震との関連性

  • 3

    「トランプ勝利」世界に広がる驚き、嘆き、叫び

  • 4

    注目は午前10時のフロリダ、米大統領選の結果は何時…

  • 5

    トランプに熱狂する白人労働階級「ヒルビリー」の真実

  • 6

    米大統領選、クリントンはまだ勝つ可能性がある──専…

  • 7

    トランプ勝利で日本はどうなる? 安保政策は発言通…

  • 8

    【敗戦の辞】トランプに完敗したメディアの「驕り」

  • 9

    まさかの逆転劇 トランプの支持率、クリントンを僅…

  • 10

    北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは...

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

日本再発見 「五輪に向けて…外国人の本音を聞く」
リクルート
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

『ハリー・ポッター』魔法と冒険の20年

絶賛発売中!