コラム

中国が忘れた「北風と太陽」の教訓

2016年01月22日(金)15時00分
中国が忘れた「北風と太陽」の教訓

 私はつい先日、台湾で初の女性総統が誕生するのを自分の目で見てきたばかりだ。独裁国家・中国から国外に「亡命」した華人の1人として、台湾の人々が自分たちの投票で今後4年間の指導者を決めるのをとても感慨深く、またとてもうらやましく見つめた。

 選挙前には、台湾の選挙情勢に影響を与える重大な事件が発生した。韓国で人気のある台湾女性アイドル周子瑜(チョウ・ツーユィ)が、出演した韓国のテレビ番組の中で中華民国国旗を掲げたことを、同じ台湾出身で中国で活動する歌手の黄安(ホアン・アン)が「周子瑜は台湾独立を支持している」と微博(ウェイボー)で告発。黄安と愛国ネットユーザーの攻撃で、中国のテレビ局が彼女が所属するグループの出演停止を宣言し、周子瑜の所属する韓国の芸能プロは中国市場を失わないため、この16歳の少女にテレビで中国人に向かって謝罪させた――のだ。

 これはISIS(自称イスラム国、別名ISIL)の人質ビデオと同様の反応を台湾人に巻き起こした。台湾人にとって中華民国国旗を掲げるのは自分たちの自由である。この事件後、もともと政治に興味を持たない若者は考え方を変え、互いに呼び掛けあって故郷に戻り、投票に参加した。中には国外からわざわざ帰国した人もいたほどだ。彼らが票を投じたのは、台湾独立に傾く政党――つまり民進党だ。もともと敗色の濃かった親大陸政策の国民党の選挙情勢はさらに悪化した。

 1月16日に台湾の総統選挙は無事終了した。しかし、周子瑜事件は余震が続いている。数日前、中国の愛国青年たちは「聖戦」を開始。ネットユーザーに中国政府がネット封鎖のために設けたグレート・ファイアウォールを越えるように呼びかけ、台湾に「進撃」した。彼らの重点目標は新総統に当選した蔡英文と独立支持派の台湾メディア、タレントのホームページだ。私のホームページも彼らのののしりと攻撃の言葉でいっぱいになった。

 私は北風と太陽が「どちらが通行人の厚いコートを脱がせることができるか」という競争をした――という寓話を思い出す。北風は強く風を吹かせたが、通行人はかえってコートが脱げないようしっかりと抑えつけた。一方、太陽が暖かい光で通行人を照らすと、温まった通行人はいつの間にかコートを脱いでしまった。

 ほとんどの中国人は小さい時、中国語の授業でこの寓話を勉強したことがあるはずだ。しかし、彼らはとっくに忘れてしまったらしい。ミサイルで台湾を脅すことに慣れた共産党政府も、この簡単な道理が分からないようだ。

<次ページに中国語原文>

プロフィール

辣椒(ラージャオ、王立銘)

風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送っている。

ニュース速報

ワールド

北朝鮮がミサイル発射、失敗との見方 「内陸部に落下

ワールド

北朝鮮が弾道ミサイル発射、同国内陸部に落ち失敗のも

ワールド

北朝鮮問題で安保理閣僚級会合、米国「今こそ行動すべ

ビジネス

弱いGDPで小安い、アマゾンとアルファベットは最高

MAGAZINE

特集:国際情勢10大リスク

2017-5・ 2号(4/25発売)

北朝鮮問題、フランス大統領選、トランプ外交──。リーダーなき世界が直面する「10のリスク」を読み解く

グローバル人材を目指す

人気ランキング

  • 1

    半島危機:プーチン静観は、北朝鮮よりトランプのほうが危ないから

  • 2

    北朝鮮ミサイル実験「失敗」の真相

  • 3

    プラスチック製「人工子宮」でヒツジの赤ちゃんが正常に発育

  • 4

    「空飛ぶ自動車」いよいよ発売、課題は大衆化

  • 5

    アメリカが北朝鮮を攻撃したときの中国の出方 ── 環…

  • 6

    イバンカのアパレル工場は時給1ドルのブラック企業だ…

  • 7

    トランプ、韓国を攻撃「FTA見直し、THAAD導入費負担…

  • 8

    チャリ通は長寿の秘訣。がんや心臓疾患のリスクが4割減

  • 9

    義を見てせざるは習近平、朝鮮有事に勇気なし

  • 10

    英「ロシアに核の先制使用も辞さず」── 欧州にもくす…

  • 1

    25日に何も起こらなくても、北朝鮮「核危機」は再発する

  • 2

    ロシア軍が北朝鮮に向け装備移動か 大統領府はコメント拒否

  • 3

    北朝鮮ミサイル攻撃を警戒、日本で核シェルターの需要が急増

  • 4

    北朝鮮ミサイル実験「失敗」の真相

  • 5

    アメリカが北朝鮮を攻撃したときの中国の出方 ── 環…

  • 6

    「いま米軍が撃てば金正恩たちは全滅するのに」北朝…

  • 7

    北朝鮮、軍創設記念日で大規模砲撃演習 米原潜は釜…

  • 8

    英「ロシアに核の先制使用も辞さず」── 欧州にもくす…

  • 9

    北朝鮮「超強力な先制攻撃」を警告 トランプは中国…

  • 10

    もし第3次世界大戦が起こったら

  • 1

    25日に何も起こらなくても、北朝鮮「核危機」は再発する

  • 2

    「いま米軍が撃てば金正恩たちは全滅するのに」北朝鮮庶民の本音

  • 3

    ユナイテッド航空「炎上」、その後わかった5つのこと

  • 4

    北朝鮮に対する軍事攻撃ははじまるのか

  • 5

    米空母「実は北朝鮮に向かっていなかった」判明まで…

  • 6

    15日の「金日成誕生日」を前に、緊張高まる朝鮮半島

  • 7

    北朝鮮への米武力攻撃をとめるためか?――習近平、ト…

  • 8

    北朝鮮近海に米軍が空母派遣、金正恩の運命は5月に決…

  • 9

    ロシア軍が北朝鮮に向け装備移動か 大統領府はコメ…

  • 10

    オーバーブッキングのユナイテッド航空機、乗客引き…

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

日本再発見 「外国人から見たニッポンの不思議」
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版 別冊

0歳からの教育 知育諞

絶賛発売中!