最新記事
シリーズ日本再発見

五輪で日本の喫煙環境はどう変わるのか?

2016年12月19日(月)15時20分
高野智宏

「バーは大人の社交場、全面禁煙は反対」

 では、外国人喫煙者たちの意見はどうだろう。日本の喫煙環境は「現状でちょうど良い」と言うのは、日本の投資銀行で働くアメリカ人のマイケル・マッキーニーさん(49歳)だ。「ただ喫煙者である僕でも、食事の席で喫煙するのは反対だ。でも、主にお酒を楽しむ場所であるバーも全面禁煙にするのはどうかと思う」

「バーは大人の社交場であり、喫煙も大人に許された権利のひとつ。喫煙の可否もオーナーが決めるべきであって、アメリカのように政府が決めることではないと思う」と、マッキーニーさんは政府主導の対策強化に疑問を投げかける。

 一方、インバウンド市場を牽引する訪日中国人の観光ガイドを務め、自らも喫煙者である王軍さんには、中国人観光客の喫煙状況について聞いてみた。

「来日する中国人の40%は喫煙者で、大半は男性。彼らが路上喫煙をしてしまうのは、喫煙所が少ないからだ。特に歌舞伎町は繁華街なのに少ないと感じる。また、喫煙所への案内が中国語で表記されていないことも大きな理由だ。ただ、最近では日本の喫煙マナーも浸透しはじめ、喫煙所をきちんと探す傾向にある」

 これから規制が厳しくなる見込みであることを伝えると、王さんは「北京や上海などの大都市では、建物内禁煙も増えてきたため、中国人観光客もそこまで厳しさを感じないのでは」と、柔軟に対応できるであろうと予測する。喫煙所を十分に設け、外国人にも分かりやすい案内を行うことがポイントになりそうだ。

対策強化に飲食業界以外からも戸惑いの声

 さて、日本の受動喫煙防止対策だが、具体的にどんな内容になるのだろうか。厚労省が掲げた強化プランのたたき台は、学校・医療機関などは「敷地内禁煙」、官庁や社会福祉施設、大学などは「建物内禁煙」、ホテルや飲食店、遊戯施設などは「原則建物内禁煙」というものだ。

 厚労省の「受動喫煙防止対策強化検討チームワーキングブループ」が10月と11月、2回にわたって公開ヒアリングを実施した。医療、飲食、宿泊、遊戯、運輸の業界団体や労働組合、消費者団体などを招き、防止対策強化に対する意見を聞くことを目的としたものだ。各団体からはどんな意見が出たのだろうか。

 反対意見を述べたのは、まずは飲食業界だ。日本フードサービス協会は「客離れや売上不振による従業員の給与削減や、最悪、閉店を余儀なくされるかもしれない」と危機感を募らせる。「おもてなしの精神で、吸う人・吸わない人の共存が大切だ」

 一方、日本私立大学団体連合会からも「時間的猶予と支援をお願いしたい」との声が出た。「65%の大学が原則建物内禁煙だが、なかには建物内に喫煙所を設置する大学もあり、これを屋外へと移設するには費用がかかり経営を圧迫する」

【参考記事】新宿―東京は何線で? 日本の交通案内は分かりやすいですか

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ政権、予算教書を公表 国防以外で1630億

ワールド

ロ凍結資金30億ユーロ、投資家に分配計画 ユーロク

ワールド

NATO事務総長、国防費拡大に新提案 トランプ氏要

ワールド

ウクライナ議会、8日に鉱物資源協定批准の採決と議員
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 4
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 5
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 6
    宇宙からしか見えない日食、NASAの観測衛星が撮影に…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    金を爆買いする中国のアメリカ離れ
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中