コラム

フランス発ユーロ危機はあるか──右翼と左翼の間で沈没する「エリート大統領」マクロン

2024年07月10日(水)20時45分

ウクライナ戦争から手を引くか

マクロンとメランションの差異は経済だけでなく多岐に及ぶ。

ロシアによるウクライナ侵攻について、マクロンはウクライナ支援を全面に打ち出し、地上部隊の派遣さえ示唆してきた。


これに対してメランションはロシアの軍事活動を批判しながらも、制裁の強化には反対(これも極右と同じ)し、さらにウクライナ戦争を招いた原因は “アメリカやNATOがロシアにプレッシャーをかけたこと” と批判している。

メランションは以前から “NATO脱退” を主張するなど、アメリカへの拒絶反応が鮮明だった(この点でも極右と同じ)。それはアメリカ中心のグローバル化が格差などを深刻化させたことへの批判による。

フランスには冷戦時代、アメリカ主導のベトナム戦争に反対してNATO軍事部門から撤退した歴史がある。

とはいえ、メランションが首相になってもNATO脱退がすぐ実現するとは想定できないが、少なくともマクロンがこれまでほどアメリカの方針につきあわなくなる公算は高い。

現在の第五共和制憲法では大統領が “最高司令官である” としながらも、首相が “国防に責任を負う” ともあり、曖昧な表記にとどまっている。そのため、大統領と首相の発言力は、その時の政治状況によって変わってくる。

ヨーロッパに向かう移民が増えるか

最後に、移民や異文化の取り扱いでも二人は対照的だ。

マクロンは極右に対抗するため、むしろ極右に近い態度をみせてきた。例えば2021年には、「水泳をしない生徒は国家を分断する」と主張した。

これは人前で肌をさらすことを拒否するムスリムの女子学生が水泳の授業を免除されていることへの批判だった。

革命(1789年)後のフランスでは、宗教的価値観を公的な場で示すことを制限する “世俗主義” が国是になっていて、これを根拠にマクロンはムスリム市民の文化的シンボルを制限しようとしたのだ。

こうした態度はフランスのムスリム市民だけでなく、各国のムスリムからも批判を集めてきた。

これに対して、メランションは性別、宗教、人種などがそれぞれの特性を失うことなく共生できる状態をクレオール化と呼び、移民の流入によってフランス文化に様々な要素が加わることにむしろプラスの意味を見出そうとする。

マクロンの “古き良きフランス” イメージが中高年白人の支持を集めやすいのに対して、メランションの “未来志向のフランス” は主に若年層やマイノリティから支持されやすい。

ただし、移民に寛容な姿勢をアピールするバイデン政権が発足した後、中南米からアメリカを目指す不法移民が急増したように、メランションが首相になれば中東・アフリカからフランスを目指す人の流れが加速することも想定される。

それでもマクロンがメランションを抑えるのは難しいだろう。右翼と左翼の間でマクロンがレームダックになったことで、フランスはヨーロッパ全体を揺るがす震源地になりかねないのである。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

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プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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