コラム

テキサス州の幼児向け銃乱射対処マニュアルにプーさん登場で物議 「逃げられないなら全力で戦え」とも...

2023年05月31日(水)13時30分
物議を醸した銃乱射対応マニュアル

物議を醸した銃乱射対応マニュアル Straight Arrow News-YouTube

<銃犯罪の多発地域テキサス州の幼稚園などで配布された対処マニュアルが物議を醸している。「読み聞かせるなんて無理」と保護者からは戸惑いの声も>


・スクール・シューティングの発生件数が全米屈指のテキサス州で、教育局が幼児向けに、「プーさん」をあしらった銃乱射対応マニュアルを配布した。

・内容とイラストのギャップの大きさに、保護者からは戸惑いや批判が噴出している。

・テキサス州議会で銃規制強化の法案が成立しなかった直後のタイミングだったことも、「プーさんのマニュアルで済ませようというか」という不満を呼んだと見られる。

無差別殺傷からどうやって子どもを守るか。アメリカでも銃犯罪多発地域であるテキサスの取り組みは、日本の反面教師になる。

「逃げろ、隠れろ、戦え」

アメリカのテキサス州では幼児向けに配布された銃乱射対処マニュアル'Stay Safe'が物議をかもしている。

このマニュアルが全編「くまのプーさん」のイラストで説明されているからだ(ディズニー版ではなく原作のイラスト。原作は2022年1月に著作権が期限を迎えて失効した)。

このマニュアルのキャッチフレーズは「逃げろ、隠れろ、戦え(Run, Hide, Fight)」。これはFBI(連邦捜査局)も銃乱射対処マニュアルで推奨しているもので、「見つかりにくくするために明かりを消す」、「携帯電話が鳴らないように音を消す」など内容には具体的なポイントもある。

アメリカではもともと銃犯罪が多いが、この数年で急激な増加傾向をみせている。それに比例して、職場や出先などで銃乱射に遭遇した時のマニュアルの需要も高まっている。

mutsuji230531_gunchart.jpg

とはいえ、全年齢を対象にした内容が幼児に適応できるかは疑問もある。ポイントを一つずつ見ていこう。

まず「逃げろ」に関しては、プーさんの友だち、ラビットのイラストの脇に「もし離れた方が安全なら、その場にとどまらないで、ラビットみたいに走らないといけません」とある。これだけなら不思議はない。

しかし、次の「隠れろ」の部分では、プーさんがハチミツのツボに頭を突っ込んだり、あるいは逆に大きなハチミツのツボに体を入れたりしているイラストの脇に、「危険が近くても怖がってはいけない。警官が来るまで、プーさんがしているみたいに隠れなさい」とある。

この時点で、悪意をもって子どもに迫る人間がいる、という想定のないプーさんの世界観とのギャップに違和感を感じざるを得ない。

自己責任はどこまで

この違和感は最後の「戦え」になるとさらに際立ってくる。

プーさんの友だち、カンガルーのカンガとルーの親子がボクシンググローブをつけたイラストの脇に、「もし危険が目の前にあったら、その場にいないで逃げなさい。それができないなら、全力で戦わないといけません」とあるのだ。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米アトランタ連銀総裁、インフレ進展停滞なら利上げに

ビジネス

3月全国消費者物価(除く生鮮)は前年比+2.6%=

ワールド

パレスチナ国連加盟、安保理で否決 米が拒否権行使

ビジネス

スペースXの米スパイ衛星網構築計画、ノースロップが
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 3

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 4

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 5

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 6

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 9

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 10

    ヨルダン王女、イランの無人機5機を撃墜して人類への…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story