コラム

「スーダン内乱の長期化でコーラなど炭酸飲料が値上がりする」は本当か

2023年05月11日(木)17時40分

しかし、他の用途と比べても炭酸飲料の場合、代替材料を使うことが難しいため、アラビアゴムの重要性は高いといわれる。

そのため、これまでもアラビアゴムはスーダンにとってだけでなく海外にとっても重要物資であり、国際的な焦点になってきた。

例えば、2019年までこの国を支配したバシール前大統領はアメリカと対立し、スーダンは「テロ支援国家」の指定を受けて経済制裁の対象になった。しかし、その時代もアラビアゴム取引が例外的に認められた。飲料メーカーなどのロビー活動があったからだ。

また、バシール政権が崩壊した後、西側との関係改善が進むなか、EUはスーダンのアラビアゴム産業支援のため、2021年までに1000万ユーロ(約15億円)を提供した。その多くはフランスからのものだった。フランスはアラビアゴムの大消費国であると同時に、加工済みアラビアゴムの大輸出国でもある。

「コーラ値上がり」の現実味は

だとすると、今回のスーダン内乱で多くの企業が神経を尖らせるのも無理はない。

ペプシやコカコーラなど大手メーカーはアラビアゴムを数カ月分ストックしているとみられる。そのため、すぐに枯渇するわけでないとしても、戦闘が長期化すれば話は別だ。

今回の内乱は首都ハルツームを主な舞台としているため、通信障害が発生するなど、社会・経済活動全体に悪影響が及んでいることも、この懸念に拍車をかけている。

だたし、コーラなどの商品が全く影響を受けないとは思えないが、大幅な値上げが必要なレベルまでアラビアゴム供給量が減少するかには、疑問の余地もある。

その最大の理由は、内乱発生以前からスーダンではアラビアゴムの密輸が横行していたことだ。

内乱が勃発する直前の3月下旬、スーダンの民主化勢力は同国産アラビアゴムの40%以上が近隣のエジプトやチャドに密輸されていると指摘し、軍事政権に改善を要求した。それによると、密輸されているのはアラビアゴムだけでなく、綿花や油料種子など主な農作物の多くが含まれている。

戦時でも続く取引とは

スーダンに限らず、アフリカでは政治的有力者がかかわる企業による脱法行為は珍しくない。それを取り締まるべき公的機関まで汚職に塗れていれば、なおさらだ。

例えばコンゴ民主共和国では、リチウムイオン電池の生産に欠かせないコバルトが産出されているが、20年以上続く内戦のなか、軍の高官まで密輸と児童労働に深く食い込んでいる。海外企業はそれを調達しているのだ。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

英、「影の船団」対策でロ石油大手2社に制裁 中印企

ビジネス

TSMC、通期見通し上方修正 第3四半期39%増益

ビジネス

8月第3次産業活動指数は2カ月ぶり低下、基調判断据

ワールド

維新が自民に政策提示、企業献金廃止など12項目 1
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 2
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道されない、被害の状況と実態
  • 3
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇跡の成長をもたらしたフレキシキュリティーとは
  • 4
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 5
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 6
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 7
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 8
    【クイズ】アメリカで最も「死亡者」が多く、「給与…
  • 9
    【クイズ】サッカー男子日本代表...FIFAランキングの…
  • 10
    間取り図に「謎の空間」...封印されたスペースの正体…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 9
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 10
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story