コラム

「一帯一路」10周年なのに熱心に宣伝しない中国──求心力低下への警戒

2023年03月13日(月)14時30分
李強新総理と握手する習近平首席

全人代で李強新総理と握手する習近平首席(2023年3月11日) GREG BAKER/Pool via REUTERS

<習近平自身が打ち出した「一帯一路」構想を巡って中国政府はジレンマに直面している。今年開催される第3回フォーラムへの参加国が減れば中国のメンツは傷つくが、かといって、中止する訳にもいかない>


・今年で10周年を迎える中国主導の経済圏「一帯一路」構想には、これまで多くのヨーロッパ諸国も参加してきた。

・しかし、2019年以降、香港デモとコロナ禍をきっかけに、ヨーロッパにおける反中感情はかつてなく高まっている。

・この状況下、中国政府は今年「一帯一路」フォーラムを開催する方針だが、首脳クラスの参加が減少する公算も高い。

・ただし、中国は「一帯一路」フォーラムを開催しないわけにもいかないジレンマに直面している。

中国政府は「一帯一路」10周年を大々的にアピールしたくてもできないジレンマに直面している。

「一帯一路」10周年の国際会議

2023年は習近平国家主席が「一帯一路」構想の前身「シルクロード経済ベルト」構想を打ち出して10年の節目を迎える。それを自ら祝うように昨年11月、習近平は第3回「一帯一路」フォーラムを2023年中に開催する方針を打ち出した。

「一帯一路」はユーラシアからアフリカにかけての広大な領域に交通系インフラを建設して物流を活発化させ、中国主導の経済圏を創設することを目指す。

「一帯一路」構想には約140カ国が参加しており、ウォール・ストリート・ジャーナルの推計では、これまで中国はインフラ建設のために約1兆ドルを投じてきた。

その沿線国を招いたフォーラムは、第1回が2017年5月に、第2回は2019年4月に、それぞれ開催された。

コロナ感染拡大で中断されていた第3回フォーラムを今年中に開催するという方針は、中国にとって「ゼロコロナ政策の成功」「国際取引の本格的再開」を打ち出すメッセージになる。

ところが、第3回「一帯一路」フォーラムの開催について、中国政府はその後、公式声明でほとんど触れてこなかった。3月初旬の全国人民代表会議(全人代)でも「一帯一路」に関する言及はほとんどなかった。

そこには「習近平自身が打ち出した『一帯一路』構想の10周年をスルーできないが、あまり大々的に宣伝したくもない」という中国政府のジレンマをうかがえる。

首脳会合出席国が減る懸念

中国政府にとって最大の懸案は恐らく、「一帯一路」国際会議のメインイベント、首脳会合にどれだけの国が出席するかだろう。その数が2019年の第2回より減りかねないからだ。

中国政府は「一帯一路」フォーラムの参加国のうち、君主、大統領、首相といった首脳クラスを派遣した国だけを選別し、首脳会合(リーダー・ラウンドテーブル)を開いてきた。いわば特に積極的な国だけ特別扱いするということだ。

もっとも、その数は実はあまり多くない。2017年の第1回で首脳会合に参加したのは中国を含めて29カ国だった。

2019年の第2回でこの数は中国を含めて39カ国にまで増えたが、それでも参加国全体の3割程度だった。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ドイツ輸出、5月は予想以上の減少 米国向けが2カ月

ビジネス

旧村上ファンド系、フジ・メディアHD株を買い増し 

ワールド

赤沢再生相、米商務長官と電話協議 「自動車合意なけ

ビジネス

日経平均は反発、対日関税巡り最悪シナリオ回避で安心
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 5
    「ヒラリーに似すぎ」なトランプ像...ディズニー・ワ…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    米テキサス州洪水「大規模災害宣言」...被害の陰に「…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 10
    中国は台湾侵攻でロシアと連携する。習の一声でプー…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 3
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸せ映像に「それどころじゃない光景」が映り込んでしまう
  • 4
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 5
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 6
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 10
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story