フェデリコ・フェリーニの『道』で「欠落の作法」を学んだ

ザンパノと一緒に旅をするジェルソミーナは、頭が少し弱いが明るくて素直な娘だ。演じるのはフェリーニの妻ジュリエッタ・マシーナ。愛嬌はあるけれど決して美人ではないし、同時代のジーナ・ロロブリジーダやソフィア・ローレンのようにイタリア女優の定番であるグラマラスな肉体を誇示しているわけでもない。

粗野なザンパノから下僕のように扱われ、時には暴力も振るわれながら、ジェルソミーナはいちずだ。客寄せの太鼓や口上を懸命に覚える。

『甘い生活』や『8 1/2』など後のフェリーニの映画で明確となる「シンボル」や「示唆」は、『道』においても随所に現れる。言い換えれば、メタファーが過剰なのだ。もっと（本音で）言い換えれば、説明が排除されすぎていて描写が不親切だ。

ジェルソミーナの姉はなぜ死んだのか。オープニングにつながる重要なエピソードだが説明は一切ない。ザンパノとジェルソミーナは男女の関係だったのか。それを示唆するシーンはいくつかあるけれど、最後まで明確にはならない。

物語の重要な伏線であるはずのイル・マットとザンパノの確執もよく分からない。修道院でザンパノが銀のハートを盗んだのかどうかも、シーンが断ち切られていて分からない。