のちの巨匠2人が組んだ脱獄映画『ミッドナイト・エクスプレス』は成長なき物語
ILLUSTRATION BY NATSUCO MOON FOR NEWSWEEK JAPAN
<脚本オリバー・ストーン、監督アラン・パーカーの『ミッドナイト・エクスプレス』では「主人公の成長」という映画の王道に反し、ビリーは最後まで軽薄で感情的なままだ>
『ミッドナイト・エクスプレス』の公開年は1978年。タイトルを直訳すれば深夜急行。ちなみに沢木耕太郎の『深夜特急』の刊行は86年。刑務所からの脱獄を意味する本作のタイトルからインスパイアされたことを、後に沢木自身が語っている。
脱獄をテーマとした映画は、『ショーシャンクの空に』『大脱走』『アルカトラズからの脱出』『パピヨン』など(まだいくらでもある)数多い。これらの作品の共通項は、(パピヨンがまさしく典型だけど)脱獄に成功する主人公が強靭な精神力を持つタフガイであることだ。
でも本作の主人公であるビリー・ヘイズはフィジカルにおいてもメンタルにおいても、極めて凡庸な存在だ。いやむしろ、観光で滞在していたトルコから帰国する直前、同行していた恋人のスーザンに内緒で大量の大麻樹脂(ハシシ)を服の下に隠してトルコの捜査当局に逮捕されるのだから、キャラ的には軽薄な小悪党に近い。
空港で搭乗ゲートへと向かうバスの中で、購入した英字新聞を手にしたスーザンは、ジャニス・ジョプリンが急逝したことをビリーに告げる。死因はヘロインの過剰摂取。衝撃を受けるスーザンだが、大麻樹脂を隠し持ったビリーはこの話題に興味を示さず、周囲に乗客がいるのに彼女の胸に触ろうとしてたしなめられる。
ほんの数カットであるけれど、薬物常習の深刻さとビリーの軽薄さを、冒頭でしっかりと提示している。
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