コラム

企業不祥事がなくならない理由は「ダブルバインド・コミュニケーション」

2018年10月05日(金)10時30分

少なくとも、トップが公に誓った「襟を正す」といった気持ちが、表面上のことではなく本気であることを明確にし、浸透させることができていれば不正は続いていなかったはずだ。

そのためには、ただ公の場で表明するだけでなく、就業規則や人事評価システムといった人事制度の変革が必要となる。その上で、ダブルバインドのようにゆがんだコミュニケーションが流通しないようなルールや企業文化づくりも欠かせない。

現状をきちんと伝え、その中で最適な方策を導き出せる企業文化であれば、大掛かりな調査などしなくても現場は本当のことが言えただろう。現場に一方的に無理をさせず不正を根絶するまでの道筋を立てるには、トップの本音が重要であり、中間管理職の力量が試される。何を優先するのかをトップから中間管理職、現場まできちんと共通認識にしなければならないのだ。

実際に筆者がファーストリテイリングの人事の執行役員をやっていた時には、価値観や判断基準を共有するために、トップ、役員、部長、現場の管理職が集まって、こんな時にはどう考えるべきか、どう行動すべきか、ということを議論する研修を何度も開いていた。

人の判断なので、完璧に同じにはならないが、自分たちが何を大事にするのかという軸を共有するには、きちんとしたプログラムが必要だ。

具体的には、現場で起こっている事象を例に、どう判断すべきかをまずは自分たちで考え、その後トップの意見を聞き、議論を戦わせ、大事にする価値観や判断基準をそろえていったのだ。そうすれば、自信を持ってメンバーに指示ができる。

何を優先させるべきかを決められないトップや中間管理職がいれば、ダブルバインド・コミュニケーションが起こりえる。その時にいちばん苦しむのは、結局現場の社員だ。

ダブルバインド・コミュニケーションが生じないような環境づくりに取り組めば、何度も不祥事を起こすような会社から、社会に対して公明正大に事業に取り組んでいると胸を張れる会社に生まれ変われるはずだ。

ダブルバインド・コミュケーションの罠により、自殺にまで追い込まれるような精神状態に陥るケースもありえる。仕事をすることで不幸になるような会社に、決して未来はない。

あなたの会社は大丈夫ですか。そして、あなた自身がダブルバインド・コミュニケーションを作り出していませんか。

ニューズウィーク日本版 コメ高騰の真犯人
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年6月24日号(6月17日発売)は「コメ高騰の真犯人」特集。なぜコメの価格は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

松岡保昌

株式会社モチベーションジャパン代表取締役社長。
人の気持ちや心の動きを重視し、心理面からアプローチする経営コンサルタント。国家資格1級キャリアコンサルティング技能士の資格も持ち、キャリアコンサルタントの育成にも力を入れている。リクルート時代は、「就職ジャーナル」「works」の編集や組織人事コンサルタントとして活躍。ファーストリテイリングでは、執行役員人事総務部長として同社の急成長を人事戦略面から支え、その後、執行役員マーケティング&コミュニケーション部長として広報・宣伝のあり方を見直す。ソフトバンクでは、ブランド戦略室長、福岡ソフトバンクホークスマーケティング代表取締役、福岡ソフトバンクホークス取締役などを担当。AFPBB NEWS編集長としてニュースサイトの立ち上げも行う。現在は独立し、多くの企業の顧問やアドバイザーを務める。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルのガザ攻撃で50人死亡、物資配給所付近で

ワールド

OPEC、域外産油国の供給量見通し下げ イラン攻撃

ワールド

イスラエル、イラン国営テレビを攻撃 イランは「最大

ワールド

イラン、イスラエルの軍事拠点攻撃を示唆か 「数時間
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 3
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 4
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 7
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    コメ高騰の犯人はJAや買い占めではなく...日本に根…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 6
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 7
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 7
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 8
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 9
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 10
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story