コラム

2025年のK-POPのキーワードは「シンプルに良い曲」と「バンドサウンド」。さらなる充実に期待

2025年02月13日(木)10時07分
 

今、逆走でK-POPチャートTOP3に入っているファン・ガラム

<K-POPを語るうえで重要なキーワード「逆走」を通して、最新K-POPトレンドを考える>

K-POPで次に来るトレンドを予想するのはなかなかに難しい。四半世紀以上この世界を見続けていても、事前に分かるのは大手の事務所から登場したボーイズグループの活躍ぐらいだろうか。

推測しづらい理由は明らかだ。隣国の音楽シーンは他の国よりも競争が激しいせいか、飛び道具的なアーティストがいきなり出てきてシーンをひっかきまわすことがめずらしくないからである。それゆえに2025年もどのようなタイプが主役となるのかは、正直なところ想像できないが、1月、2月と月日が経つにつれて、ヒントとなりそうな動きがちらほらと出てきている。

newsweekjp_20250212115050.jpgなかでも気になるのが、"苦労人たちの際立った活躍"である。親の借金を背負った、貧しい幼少期を過ごしたなど、この手のエピソードがある韓国の芸能人は少なくないが、昨年後半からチャート逆走で話題を集めているふたりの男性アーティスト=ファン・ガラムとWOODZ(チョ・スンヨン)の場合はプロデビュー後の低迷期間が創作活動にプラスになったケースであり、両者がほぼ同じ時期に大きなスポットライトを浴びているのが大変興味深い。

路上生活もした自身が重なる曲で大ヒット

ファン・ガラムは1985年生まれで、今年40歳を迎える。2011年にアコースティックポップ系の男女3人組、NADV(ナディブ)の一員としてプロの道を歩み始めたものの、鳴かず飛ばず。それでもくじけなかった彼は別のユニットに加入し、並行して個人の音楽活動も地道に続けていく。そして2023年10月、サバイバルオーディション番組『お兄さん時代』への参加を機に、お茶の間で話題になる存在に。さらに2024年秋にリリースしたシングル「私はホタル」がロングセラーとなり、今や時の人となっている。

おかげで彼のこれまでの人生もあちこちのメディアで取り上げられるようになった。プサン近くのマサン(現在はチャンウォン市の一部)で生まれ育ち、歌手になるのを夢見てソウルへ。チムジルバン(健康ランドの一種)の屋上で生活したり、公園のベンチで夜を明かしたりといった日々を経て、スターダムにのし上がったという。その生きざまを投映したのが哀愁漂うフォークソング「私はホタル」で、次のようなフレーズが多くの人々の涙腺を刺激した。


〈私は自分が輝く星だと思っていました/一度も疑ったことはなかったんです/知りませんでした、私は自分が虫だということを/それでも大丈夫、私はまぶしいから〉

彼のボーカルもこの楽曲が描く世界をより味わい深いものにしている。実は歌い始めた頃は音痴だったそうで、死にものぐるいで繰り返し練習した結果、ひとつの楽器のように磨き上げたとのこと。そこに、積み重ねてきた様々な経験がしみこんだ表現力を加え、やっと独自のスタイルを確立できたわけだ。

プロフィール

まつもとたくお

音楽ライター。ニックネームはK-POP番長。2000年に執筆活動を始め、数々の専門誌・ウェブメディアに寄稿。2012年にはK-POP専門レーベル〈バンチョーレコード〉を立ち上げ、イ・ハンチョルやソヒといった実力派を紹介した。現在は『韓流ぴあ』『ジャズ批評』『ハングルッ! ナビ』などで連載。LOVE FMLuckyFM楽天ポッドキャストの番組に出演中。著書は『K-POPはいつも壁をのりこえてきたし、名曲がわたしたちに力をくれた』(イースト・プレス)ほか。

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