コラム

【徹底解説】DeepSeek革命のすべて

2025年02月15日(土)12時34分

しかし、DeepSeek-V3がGPT-4oなどを上回る好成績を挙げ、しかもそれをダウンロードして利用できることは、生成AIの世界では「開放性」が「地政学」より強いことを示唆している。本来、生成AIとは世界中のインターネット上に散らばる知識や言葉を学習するものであり、開放的な環境がなければ育ちようがない。

競争の勝敗を分けるのは、何らかの特殊な資源を握っているか否かではなく、世の中の知識や言葉を効率的に学ぶ計算方法を編み出せるかどうかである。ライバルが画期的な計算方法を作り出したが、その方法は公開されており、それを学んで改良できる。そうであれば、ライバルの前進を自分の前進につなげることができる。開放性が進歩をもたらし、地政学は進歩を妨げる。

その点では、国外のSNSへのアクセスを制限している中国政府も、中国の生成AIに対する兵糧を断つことで窒息させようとしているアメリカ政府と同罪である。長い目で見ればいずれも科学と開放性の力に負けるに違いない。

参考文献
Booth, Harry. "How China is Advancing in AI Despite U.S. Chip Restrictions." TIME, January 28, 2025.
DeepSeek-AI, DeepSeek-V2: A Strong, Economical, and Efficient Mixture-of-experts Language Model. May 2024.
DeepSeek-AI, DeepSeek-V3 Technical Report, January 2025.
Henshall, Will. "What to Know About the U.S. Curbs on AI Chip Exports to China." TIME, October 17, 2023.
Lin, Liza, and Raffaele Huang. "Huawei Readies New Chip to Challenge Nvidia, Surmounting U.S. Sanctions." Wall Street Journal, August 13, 2024.
Mak, Robyn. "How China can keep pace in the global AI race." Reuters, January 24, 2025.
Morrow, Allison. "DeepSeek just blew up the AI industry's narrative that it needs more money and power," CNN, January 28, 2025.
The Economist. "Uncomfortably close." The Economist, January 25, 2025.
劉沛林・屈運栩「DeepSeek爆火 撼動AI投資和算力競争底層邏輯」『財新周刊』2025年第5期。
劉沛林「DeepSeek走紅 英偉達、微軟、華為、騰訊等推相関服務」『財新網』2025年2月2日。

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プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

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