コラム

福島の現状を知らない中国人に向けてVICEで記事を書いた

2017年05月25日(木)16時28分

VICE中国(http://www.vice.cn/)より

<原発事故後の状況について中国の読者に真実を伝えるため、福島県を取材した。発表媒体に選んだのは、若者に熱い支持を受ける月間1億PVのウェブメディア、VICE中国だ>

在日中国人にせよ、中国で働く日本人にせよ、「日中の架け橋になりたい」と口にする人はごまんといるが、実践している人はどれだけいるだろうか。私、李小牧は日中相互理解の重要性を常々説いてきたつもりだし、日本はより積極的な対中情報発信が必要だと訴えてきた。今回は私がその言葉をどのように実践しているか、ご紹介したい。

4月17日、私は朝一番の東北新幹線に飛び乗って福島県へと向かった。目的はただ一つ、原発事故後の福島県の状況について、中国の読者に真実を伝えるためだ。

本欄のコラム「中国TVの『日本の汚染食品が流入!』告発は無視できない重大事」「日本が危ない!? 福島原発の放射能フェイクニュースが拡散中」で伝えてきたように、中国では原発事故後の状況について深刻な誤解が蔓延している。

本来ならば、日本政府が大々的な宣伝キャンペーンを展開して誤解を払拭するべきなのだが、残念ながら今に至るまでそうした動きは見られない。ならば、中国ナンバーワンTVトークショー「鏘鏘三人行」をはじめ、さまざまな中国メディアに出演し一定の影響力を持つ私が「日中の架け橋になろう」と決意したのだ。

発表媒体に選んだのはVICE中国だ。もともとカナダのフリーペーパーとして出発したVICEだが、現在では世界各国語版を展開する巨大ネットメディアに成長した。他国同様、中国でも若者を中心に熱い支持を集め、月間1億PV(ページビュー)を記録するほどの人気ぶりだという。

インターネットの発展に伴い、メディア業界は大変動を迎えている。テレビや雑誌、新聞などのレガシーメディアよりも、ウェブメディアのほうが高い訴求力を持ちつつあるのだ。これは世界的な状況だが、中国では日本以上のスピードで変化が進んでいる。

公開24時間で記事の閲覧数は70万を超えた

VICEのコラムだが、1回の分量は2000文字相当(日本語に換算すると2600~3000字程度)である。文章も動画もひたすら短く、というのが中国のトレンドだ。スマホでの閲覧に適切な分量に合わせている。

私はこれまでにもさまざまな中国語媒体でコラムを書いてきたが、VICEの原稿料は一番高額だ。いや、正確にいうならばこれまで最高額だった媒体の2倍の原稿料が提示されたのだ。レガシーメディア以上の原稿料が支払われるとは正直驚いた。

もっとも、残念ながら経費は提供されないため、福島に取材に行った今回は赤字になってしまった。まあ仕方がない。自腹を切ってでも中国の若者に伝えたいメッセージがあるのだから。

「現地の食品・旅行安全問題を確かめるべく、私は桜の季節に福島へと向かった」と題され、5月4日に掲載されたコラムは爆発的な反響を得た。公開後24時間で閲覧数は70万を超えたという。怪しげな噂ではなく、私が自らの目と足で確かめたような情報を中国の若者たちは欲していたのだ。

プロフィール

李小牧(り・こまき)

新宿案内人
1960年、中国湖南省長沙市生まれ。バレエダンサー、文芸紙記者、貿易会社員などを経て、88年に私費留学生として来日。東京モード学園に通うかたわら新宿・歌舞伎町に魅せられ、「歌舞伎町案内人」として活動を始める。2002年、その体験をつづった『歌舞伎町案内人』(角川書店)がベストセラーとなり、以後、日中両国で著作活動を行う。2007年、故郷の味・湖南料理を提供するレストラン《湖南菜館》を歌舞伎町にオープン。2014年6月に日本への帰化を申請し、翌2015年2月、日本国籍を取得。同年4月の新宿区議会議員選挙に初出馬し、落選した。『歌舞伎町案内人365日』(朝日新聞出版)、『歌舞伎町案内人の恋』(河出書房新社)、『微博の衝撃』(共著、CCCメディアハウス)など著書多数。政界挑戦の経緯は、『元・中国人、日本で政治家をめざす』(CCCメディアハウス)にまとめた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米CPI、4月は前年比3.4%上昇に鈍化 利下げ期

ビジネス

米小売売上高4月は前月比横ばい、ガソリン高騰で他支

ワールド

スロバキア首相銃撃され「生命の危機」、犯人拘束 動

ビジネス

米金利、現行水準に「もう少し長く」維持する必要=ミ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 3

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 4

    それでもインドは中国に勝てない...国内企業の投資意…

  • 5

    マーク・ザッカーバーグ氏インタビュー「なぜAIを無…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    奇跡の成長に取り残された、韓国「貧困高齢者」の苦悩

  • 8

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story