コラム

歴史を軽視した革命思想から解き放たれ、初体験は55の夏

2016年07月20日(水)16時23分

湘譚歌舞劇団建団55周年記念式典を取り上げた地元メディアのニュース映像より

<初めて国政選挙を経験した参院選の9日前、故郷・湖南省に戻り、青春を謳歌したバレエ団の建団55周年記念式典に参加した。その時に感じたのは、信仰を禁じ歴史を軽視した文革時代から、中国の人々の心は実は変わっていないということだった>

「初体験は18の夏がいい」という刺激的なキャッチコピーが話題となった参議院選挙。実は私も少年少女たちと同じく"初体験"だった。そう、2015年2月に日本国籍を取得してから最初の国政選挙だったのだ。まあ昨年の新宿区議選に出馬したため、投票よりも先に立候補を体験しているのだが。区議選では自分自身に一票を入れたが、他人に一票を入れたのは今回が初めてだ。「民主主義を実践したのだ」と深い感動を覚えた。

 たかが投票ぐらいで大げさすぎると思われるかもしれない。だが民主主義国で生まれ育った皆さんと違い、「元・中国人、現・日本人」の私は民主主義のすばらしさを痛感している。私が選挙権を手にするまでには、たんに国籍を変える手続きだけではなく、"頑迷固陋"な思想から解き放たれる道のりが必要だった。つい最近、そのことを思い知らされた出来事があった。

【参考記事】選挙に落ちたら、貿易会社の社長になれた話

我が青春の文革バレエ団

 参院選の投開票日からさかのぼること9日、2016年7月1日、湖南省出身の私は同省の湘譚市を訪れていた。この日は中国共産党建党95周年の記念日であると同時に、湘譚歌舞劇団建団55周年の記念日でもある。この歌舞劇団(バレエ団)で私は青春時代を過ごした。今や有名作家の仲間入りを果たした私は、記念式典に招待され、はるばる日本からこの懐かしい田舎町へと戻った(参考:記念式典を取り上げた地元メディアの記事〔中国語〕)。

 作家、ジャーナリスト、貿易会社社長、ネットメディアCEO、新宿案内人、そして政治家とさまざまな肩書きを持つ李小牧だが、かつてはバレエダンサーという肩書きを持っていた。確かに才能があったようだ。13歳で受験した北京舞踏学院の長沙地区バレエダンサー・オーディションでは候補者1万人の中から最終候補にまで残っている。55歳の今も、毎日ビールを飲みつつ現役バレエダンサー並みのプロポーションを維持していることがなによりの証明だろう(笑)。

 しかし、北京舞踏学院をはじめ多くのオーディションを受けたが、ことごとく落選してしまった。才能はあっても「政治身分」が問題視されたのだ。父は湖南省最大の文化大革命組織の幹部だったが、失脚し逮捕までされた。母の前夫は国民党員。この2つの事実が私を縛る足かせとなった。そんな中、政治身分不問で受け入れてくれたのが湘潭歌舞劇団だった。文化大革命の最中の1975年、私は15歳で入団し、中国共産党を讃える革命歌劇を演じる「文芸戦士」の仲間入りを果たした。

【参考記事】「文革の被害者」習近平と、わが父・李正平の晩年を思って

プロフィール

李小牧(り・こまき)

新宿案内人
1960年、中国湖南省長沙市生まれ。バレエダンサー、文芸紙記者、貿易会社員などを経て、88年に私費留学生として来日。東京モード学園に通うかたわら新宿・歌舞伎町に魅せられ、「歌舞伎町案内人」として活動を始める。2002年、その体験をつづった『歌舞伎町案内人』(角川書店)がベストセラーとなり、以後、日中両国で著作活動を行う。2007年、故郷の味・湖南料理を提供するレストラン《湖南菜館》を歌舞伎町にオープン。2014年6月に日本への帰化を申請し、翌2015年2月、日本国籍を取得。同年4月の新宿区議会議員選挙に初出馬し、落選した。『歌舞伎町案内人365日』(朝日新聞出版)、『歌舞伎町案内人の恋』(河出書房新社)、『微博の衝撃』(共著、CCCメディアハウス)など著書多数。政界挑戦の経緯は、『元・中国人、日本で政治家をめざす』(CCCメディアハウス)にまとめた。

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