コラム

ロシアの「弱さ」思い知った旧ソ連諸国...「力の空白」で周辺地域が一気に不安定化

2022年10月20日(木)12時00分
CSTOサミット

CSTOサミットに出席したプーチン大統領(5月16日)  Sputnik/Anton Novoderezhkin/Pool via REUTERS

<ウクライナでの苦戦により周辺地域におけるロシアの威信は大きく低下し、重しが外れた周辺地域で紛争の火種を一気に表面化させる結果を招いている>

[ロンドン発]無謀なウクライナ侵攻でロシアの国力がみるみる衰える中、周辺の旧ソ連諸国に「力の空白」が生じ、不安定化している。ウラジーミル・プーチン露大統領が自らの正当性を主張するためウクライナの占領地域にこだわれば、それだけロシアは蟻地獄にハマる。旧ソ連崩壊と同時進行形で始まったユーゴスラビア紛争と同じ悪夢が繰り返されるのか。

「アゼルバイジャンは近い将来、欧州への天然ガス供給量を倍増することを計画しており、中央アジアの国々はわが国と協力し、カスピ海を越えて欧州に至る輸送・通信回廊の整備を加速させている。(わが国と隣国アルメニアの)和平が配当をもたらす可能性は高まっているが、和平プロセスが遅れることによる機会費用も同様に増加している」

エリン・スレイマノフ駐英アゼルバイジャン大使は保守系英紙デーリー・テレグラフに「カフカスの平和を取り戻すために」と題して寄稿した。アゼルバイジャンがエスカレートさせたアルメニアとの紛争に対する西側諸国の批判をかわすためだ。スレイマノフ氏は筆者を含む西側メディアに個別取材を呼びかけ、アゼルバイジャンの主張を繰り返した。

221020kmr_pan01.jpg

エリン・スレイマノフ駐英アゼルバイジャン大使(筆者撮影)

「ロシアは疲弊し、周辺地域は不安定化するのか」との筆者の問いに、同大使は「ロシアが依然として巨人であることに変わりはない。外からどう見えるかは別問題だ。しかし安定は外からではなく、内からもたらされるべきだ」と答えた。アルメニアとの和平合意は非常に近いとの見方を示す一方で、和平が近づくにつれ暴力や挑発が起きる危険性も指摘した。

「ロシアが軍事的損失を被ったことがアゼルバイジャンを増長させた」

旧ソ連崩壊でアジアと欧州を結ぶカフカスの地政学は複雑になった。「西側諸国によるアゼルバイジャンとトルコへの大規模なエネルギー投資はアルメニアを経済的に孤立させ、バクーを支援することでアルメニアが直面する安全保障上の脅威を大きくした。ロシアがウクライナ侵攻で多大な軍事的損失を被ったことがアゼルバイジャンをさらに増長させた」

米外交誌フォーリン・ポリシーへの寄稿でこう解説するのは米国最大のアルメニア系米国人草の根支援組織「米国のアルメニア国家委員会」のプログラム責任者アレックス・ガリツキー氏。9月、アゼルバイジャンがアルメニア国内の防空・大砲システムに大規模攻撃を加え、200人以上が死亡。米航空宇宙局(NASA)が衛星から確認できるほどの激しい攻撃だった。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米ロ首脳が電話会談、プーチン氏はウ和平交渉巡る立場

ワールド

ロ、ウ軍のプーチン氏公邸攻撃試みを非難 ゼレンスキ

ワールド

中国のデジタル人民元、26年から利子付きに 国営放

ビジネス

米中古住宅仮契約指数、11月は3.3%上昇 約3年
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 5
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 6
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 7
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 8
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 9
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 10
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 8
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story