コラム

英国は米国と不平等な犯罪人引き渡し条約を結ばされている

2020年02月19日(水)10時40分

「ウィキリークス」創設者ジュリアン・アサンジ被告の父ジョン・シプトン氏(筆者撮影)

[ロンドン発]内部告発サイト「ウィキリークス」創設者ジュリアン・アサンジ被告の身柄を米国に引き渡す英政府の命令が妥当か否かを決める審理が2月24日からロンドンのウーリッジ刑事法院で始まるのを前に父親のジョン・シプトン氏が18日、報道陣の前に姿を現した。

シプトン氏の顔かたち、目元はアサンジ被告そっくり。シプトン氏は「ジュリアンに会ったのは先週が最後。15キロも体重が減りました。ジュリアンは房の中を行ったり来たりして、瞑想しているそうです。とても外で新鮮な空気を吸える環境ではありません」と静かに話しだした。

最高で禁固175年の刑

「彼の状態は改善していますが、恐ろしい状況に置かれています。彼は9年間常に、全くデタラメの罪に問われ、絶え間ない拷問を受けています。容疑が次から次へとデッチ上げられます。トランプ陣営の人間がジュリアンを訪れたという真っ赤な嘘を新聞でさえ垂れ流しています」

「ジュリアンが米国に引き渡される姿を想像したくもありません。引き渡し命令は即座に取り下げられるべきです。私は英国に自宅を構えています。家族もこの国にいます。彼のおじもおいもいとこも英国人。軟禁でも保釈でもいい。彼の帰るところはこの国しかありません」

kimura20200219090402.jpg

ジョン・シプトン氏(筆者撮影)


「この地球上で大統領以上に監視されている人間はジュリアンです。しかし彼は私たちに与えられた素晴らしい贈り物です。現代の世界をどう理解するか、政府が何をして何をしていないかという情報に基づいてどう決定するかを知らせてくれました」

「私たちは彼のおかげで政府によって行われている大量殺人と犯罪、夥しい流血を知ることができたのです。だから英政府には引き渡しを止めて、彼を人間に戻してやってほしい。スイスのジュネーブ州は彼に人道的なビザ(査証)を出すと言っています」

「これは出版の自由を脅かすグローバルな問題です。トランプ政権ではジュリアンの身柄引き渡しのため10万人が毎日働いています。100人の弁護士が関わっています。そのコストは1000万ドル(約10億9850万円)と言われています。これは市民に対する弾圧です」

アサンジ被告は米司法省からスパイ活動法違反など18の罪で起訴されている。米外交公電や駐イラク・アフガニスタン米軍の機密文書を持ち出した元米陸軍上等兵にパスワードの破り方を教えたとされ、すべて有罪になれば最高175年の刑が言い渡される恐れがある。

争点は2つある。英国では終身刑を宣告されても平均14~15年で出所できる。175年の刑期を「事実上の死刑(英国では廃止)」とみなして裁判所が身柄の引き渡しを退けるのか。アサンジ被告を公共の利益のために秘密を暴露したジャーナリストと見るか、国家の敵とみなすかだ。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

NATO事務総長、国防費拡大に新提案 トランプ氏要

ワールド

ウクライナ議会、8日に鉱物資源協定批准の採決と議員

ワールド

カナダ首相、トランプ氏と6日会談 ワシントンで

ビジネス

FRB利下げ再開は7月、堅調な雇用統計受け市場予測
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 4
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 5
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 6
    宇宙からしか見えない日食、NASAの観測衛星が撮影に…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    金を爆買いする中国のアメリカ離れ
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story