コラム

元徴用工問題で韓国政府の代位弁済案が浮上、日韓関係は改善されるか

2021年10月18日(月)15時44分
反日デモ

日本の植民地支配から解放された記念の日、元徴用工への賠償と謝罪を求める韓国人(8月15日、ソウル) .Kim Hong-Ji- REUTERS

<日韓関係は最悪で、当面その最大の障害になっているのが元徴用工への賠償金支払いのために日本企業の韓国資産を売却する裁判所命令だが、与党や財界からは関係改善を模索する声が出てきている>

10月4日、自民党の岸田文雄総裁が、第100代の内閣総理大臣に選出されてから、日韓関係の今後が注目されている。文大統領は4日、岸田総理に祝いの書簡を送り、「日韓関係を未来志向的に発展させるために共に努力しよう」と呼び掛けた。また、15日の夜には岸田首相と初の電話会談を行い、「直接会って両国の関係改善について意見を交換することを期待する」と述べた。

韓国の財界の期待感も高い。全経連(全国経済人連合会)は4日、「現在、日韓関係は歴史認識問題と日本の輸出規制等により、大きく悪化しており、最近は新型コロナウイルスの感染拡大による両国間の交流減少でさらに厳しい状況に置かれている。(中略)日本の新政府の出帆をきっかけに日韓関係が過去の難しい関係から離れて、より未来志向的な協力関係に発展できるように両国政府がさらに努力してくれることを願う。(中略)特に、岸田首相は外務大臣を歴任したこともあるので、日韓関係の改善に対する期待は大きい」と岸田政権に対する期待感を明らかにした。

また、大韓商工会議所の崔泰源(チェ・テウォン、韓国財閥3位のSKグループ会長)会長も
岸田首相に祝いの書簡を送った。大韓商工会議所が就任する日本の首相に書簡を送るのは今回が初めてのことである。

二転三転する判決

だが、日韓関係の改善は韓国側が望んでいる以上に時間がかかる可能性が高い。その理由としてはまもなく日本では衆議院選挙(10月31日)が行われるので、岸田政権が日韓関係に時間を割く余裕がないことに加え、「元徴用工訴訟問題」をめぐる日韓対立が大きな課題としてまだ残されているからだ。

同問題を巡って、日本政府は1965年の日韓請求権協定によって「解決済み」と主張しているものの、韓国の民間レベルでは日本政府への戦後補償を求める訴訟が続いており、数回にわたる判決が下された。その中でも最近の日韓対立の火種になったのが2018年に10月30日に行われた韓国大法院の判決である。

韓国の大法院は太平洋戦争中、朝鮮半島から内地に動員された元徴用工4人が、新日本製鉄(当時・新日鉄住金)に損害賠償を求めていた裁判で、1人あたり1億ウォン(約1000万円)の損害賠償を命じる判決を言い渡した。訴訟を始めてから13年ぶりの判決である。この判決により、新日本製鉄の韓国内の資産が差し押さえられる可能性がでてきた。もし、差し押さえが実行されると、訴訟が進行中である他の訴訟にも影響を与える可能性が高い。

しかしながら、今年6月、ソウル中央地裁は元徴用工や遺族ら原告85人の訴えを却下した。また、8月と9月に行われた同種の別の訴訟でも原告側が敗訴した。3回続けて2018年10月の大法院の判決とは正反対の結果が出た。

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員、亜細亜大学特任准教授を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

北朝鮮の金総書記、新誘導技術搭載の弾道ミサイル実験

ビジネス

アングル:中国の住宅買い換えキャンペーン、中古物件

ワールド

アフガン中部で銃撃、外国人ら4人死亡 3人はスペイ

ビジネス

ユーロ圏インフレ率、25年に2%目標まで低下へ=E
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 5

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    無名コメディアンによる狂気ドラマ『私のトナカイち…

  • 8

    他人から非難された...そんな時「釈迦牟尼の出した答…

  • 9

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 10

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 8

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story