コラム

財源や安全保障だけではない...政府の「NTT株売却」問題が、「国民生活」にも大きく関係する理由

2023年08月23日(水)11時42分

完全民営化によって料金引き上げの可能性も

同社グループはもはやドメスティックな通信会社という位置付けであり、世界に打って出るどころか、現状維持に汲々(きゅうきゅう)としている。現在の同社にはGAFAなどグローバル企業と対等に戦う能力はないと考えたほうがよい。

さらに言えば、近年は日本経済の貧困化が著しく、多くの国民が携帯電話の料金を支払うことすらままならない状況となっている。そうであればこそ政府は通信会社各社に対して料金の引き下げを要請したともいえる。

完全民営化が行われれば、収益を上げるために料金の引き上げが行われる可能性もあり、そうなれば、政府の料金引き下げ政策と矛盾してしまう。近年、自然災害の多発や、人口減少に伴う限界集落の増加など、最低限の通信サービスを維持することすら難しい状況となりつつある。

通信サービスをめぐる状況は複雑化しており、単純に財源と経済安保だけで判断すべきではない。もっと包括的な議論を行うべきだろう。

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プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

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例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

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