コラム

「バイデン大統領」の誕生で、最も得する日本企業はどこ?

2020年11月18日(水)12時08分

JIM BOURGーREUTERS

<自由貿易体制への回帰、格差是正、脱炭素といった経済政策の転換により、ビジネス環境も大きく変化する>

アメリカ大統領選でジョー・バイデン氏の勝利がほぼ確実となった。ドナルド・トランプ氏が敗北を認めないという異常事態が続いているが、諸外国もバイデン氏を次期大統領として認めるなど、政治空白は避けられそうな状況だ。バイデン政権の誕生で日本経済がどのような影響を受けるのか考えてみたい。

先週のコラムでも指摘したが、バイデン氏は自由貿易体制への回帰を主張しており、事実上、貿易戦争状態にある中国とも再交渉するとしている。日本の製造業は、自由貿易の恩恵を最も受けている業種といってよい。あくまで製造業に限定した話ではあるが、バイデン政権の誕生は、従来のビジネスを継続できるという点において日本経済には大きなメリットがある。

自動車産業はもちろんのこと、ファナックやTDKなど、中国に対して工作機械や電子部品を輸出する企業の業績も回復するだろう。中国がアメリカ向けに大量生産を行うため、日本製の機械や部品を必要とするというのがその理由である。

株式市場にも基本的にはプラスと考えてよい。バイデン氏は、製造業支援に7000億ドルを投じるとともに、国民皆保険制度であるオバマケアの拡充も表明した。これらは全て、中間層以下の生活水準を底上げする効果が見込める。

トランプがもたらした株高の波に乗れ

トランプ政権は大規模な減税で株価を上昇させたが、富裕層と庶民の格差が拡大したため、個人消費の停滞が懸念されていた。このタイミングで新政権が中間層の支援に乗り出せば、トランプ氏によって実現した好景気をうまく継続できる可能性が見えてくる。

もっとも、バイデン氏の政策には莫大な財源が必要となるので、増税と大規模な国債増発は必至だろう。増税は短期的に市場にとってマイナス要因となるし、国債増発が金利上昇を招くリスクもある。今のところ市場はバイデン氏の政策を好感しているようだが、目先の逆風を長期的なメリットでカバーできるのかがポイントとなりそうだ。

何といってもバイデン政権の最大の特徴は脱炭素だろう。バイデン氏は、再生可能エネルギー分野に4年間で2兆ドルという巨額投資を行うとしており、これが実現すると再生可能エネルギーに関する主導権が欧州からアメリカにシフトする可能性もある。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ABNアムロ、第1四半期は予想上回る29%増益 高

ビジネス

三菱UFJFG、発行済み株式の0.68%・1000

ワールド

中国、台湾新総統就任控え威圧強める 接続水域近くで

ワールド

米財務省、オーストリア大手銀に警告 ロシアとの取引
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 2

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 3

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 4

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プー…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    ロシア国営企業の「赤字が止まらない」...20%も買い…

  • 8

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 9

    ユーロビジョン決勝、イスラエル歌手の登場に生中継…

  • 10

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story