コラム

日米同盟の希薄化で日本は再び騒乱の幕末へ

2023年08月29日(火)17時20分

明治の岩倉使節団は欧米の実情を学び日本近代化の礎となったが WIKIMEDIA COMMONS

<欧米諸国も国民国家というシステムは手に負いかねているが、西欧リベラル思想の哲学を欠く点で日本は際立っている>

米韓首脳会議。素晴らしいことだ。だがそれとは別に、日米の安保関係ではひずみが蓄積されている。

例えば台湾防衛。台湾有事で日米が軍事でどう連携するか、シンクタンクがシミュレーションを行っている。それを見ると、日米双方とも腰が定まらず、互いに責務を押し付け合っている。アメリカは、中国本土の基地はたたかないことが大前提。だから中国の軍艦・戦闘機は全力で米軍・台湾軍を攻撃でき、多大な損害を与える。一方日本は、自衛隊出動のためには台湾有事を日本の存立危機事態と認定して国会承認を得なければならず、それは容易ではない。

兵器の面でも、アメリカが内向きになって技術の開示・移転に消極的になっている。日本は主力戦闘機F2の後継機開発をイギリス、イタリアと進めようとしている。

経済でも、アメリカは内向きの政策を強めている。インフラ建設、半導体や電気自動車に兆円単位の補助金を付けるだけでなく、外国企業を排除する姿勢がちらつく。電気自動車への政府補助金は、結局米メーカー3社の製品にしか交付されない。

今すぐではないが、日本はアメリカという後見人がいなくなることを考えておかなければならない。その時日本は、明治初期の国際環境に引き戻される。当時アメリカは南北戦争の傷癒えず、中国の清朝は近代的軍艦を購入して長崎に押し寄せて乱暴狼藉を働き、欧州列強は日本との不平等条約の利益を貪る、という状況だった。

その時よりは、日本ははるかに強大化したが、周囲を大国(しかも核保有国)に囲まれている状況は変わらない。情勢判断と外交を誤れば、明治28年の独露仏の三国干渉で、日清戦争の獲得物の放棄を迫られたような屈辱をなめさせられるだろう。

背骨となる基本的価値観がない

そして日本は明治以降も、国民国家という強大なマシンをうまく操縦する技を身に付けられずにいる。戦前は天皇を神輿に、薩摩・長州両藩出身の有力者たちが、全国から徴募した官僚を使って君臨した。軍部がこの構造を簒奪して日本を敗戦に導いた後、天皇はその権力を奪われ、頭がなくなった日本では官僚が税金の配分を差配してきた。頭はワシントンにあった。外交・安保・金融政策の大本は、ワシントンで決められていたからだ。筆者はこれを「仮の国家」と名付ける。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日経平均は続伸、円安が支え 指数の方向感は乏しい

ビジネス

イオンが決算発表を31日に延期、イオンFSのベトナ

ワールド

タイ経済、下半期に減速へ 米関税で輸出に打撃=中銀

ビジネス

午後3時のドルは147円付近に上昇、2週間ぶり高値
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 4
    「ヒラリーに似すぎ」なトランプ像...ディズニー・ワ…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    犯罪者に狙われる家の「共通点」とは? 広域強盗事…
  • 7
    自由都市・香港から抗議の声が消えた...入港した中国…
  • 8
    人種から体型、言語まで...実は『ハリー・ポッター』…
  • 9
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 10
    「けしからん」の応酬が参政党躍進の主因に? 既成…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 3
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸せ映像に「それどころじゃない光景」が映り込んでしまう
  • 4
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 5
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 6
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 7
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 8
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、…
  • 9
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 10
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 7
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story