コラム

大統領選挙後のアメリカに「第3の建国」が迫る

2020年10月27日(火)16時30分

アメリカは「再出発」できるのか(独立戦争のワシントン)PHOTO12ーUNIVERSAL IMAGES GROUP/GETTY IMAGES

<共和・民主による妥協なき不毛な争いを終わらせるため新たな有力政党をつくる時が来た>

あと1週間で米大統領選だ。予想ではバイデン前副大統領と民主党が有利ということになっている。

この4年、トランプ大統領の下で熱に浮かされたようなポピュリズムの米国に付き合わされた世界は、やっとまともなアメリカを相手にできるようになるのだろうか。

いや、多分そうはなるまい。民主党が勝てば勝ったで、「勝利の配当」を求める動きで国内、外交はずいぶん荒れるだろう。低所得層への対策強化、大学教育の無償化などが次々に求められ、トランプが異常に膨らませた財政赤字は解消されるどころか増えていく。加えて、民主党の唱える最低賃金の引き上げ、労組の復権、法人税強化が経済の活力を下げるかもしれない。共和・民主のいずれかに分かれ二者択一の戦いを続ける限り、アメリカでは1つの熱狂が去れば、また別の熱狂がやって来るだけなのだ。

20201103issue_cover200.jpg

民主党のブレーンたちは勝利後の戦略を発表し始めている。その1人、米バンダービルト大学のガネシュ・シタラマン教授がフォーリン・アフェアーズ誌に掲載した論文を見ると、民主主義の護持、ヘルスケアの拡充、累進課税の強化など、大変いいことが書いてある。しかしこの中で決定的に欠けているのは、国内の政治システム(ガバナンス)、そして経済の改革だ。

現在のアメリカの問題は、基幹産業の喪失──大勢の国民を養っていく手段を失ったことにある。1970年代以降、日本などから安価な輸入品が殺到する一方で、労働貴族化した労組幹部に賃金・企業年金の水準を野放図に上げられた米企業は、たまらず外資に身売り、あるいは国外に流出した。

そのために中産階級が疲弊。90年代後半にクリントン政権が金融業の規制緩和でGDPを膨らませたのはいいが、それは金融関係者ばかり富ませ、国内の格差を一層増大させた。企業の中には共和党議員をカネで籠絡して「茶会」グループをつくらせ、法人税引き下げなど飽くことなき利益追求に走るものも現れた。

領土・人口大国が幅を利かした時代の終焉

この中で白人低所得層が一番割を食う。そして、白人のマイノリティー転落がいよいよ現実のものになった。65年に移民法が改正され、欧州以外からの移民にも門戸が開放されてアメリカは「多民族国家」になった。経済が良ければ多民族社会もうまく回る。

しかし経済が良くないと建設や流通など低賃金労働はマイノリティーが席巻し、白人低所得層の場所を奪う。白人低所得層は不満と不安を募らせてトランプを大統領に担ぎ上げ、その揚げ句コロナ禍のただ中に放り出されたのだ。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ENEOSHD、発行済み株式の22.68%上限に自

ビジネス

ノボノルディスク、「ウゴービ」の試験で体重減少効果

ビジネス

豪カンタス航空、7月下旬から上海便運休 需要低迷で

ワールド

仏大統領、国内大手銀の他国売却容認、欧州の銀行セク
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    年金だけに頼ると貧困ライン未満の生活に...進む少子…

  • 5

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「人の臓器を揚げて食らう」人肉食受刑者らによる最…

  • 9

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 10

    自宅のリフォーム中、床下でショッキングな発見をし…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story