コラム

新型コロナ不況でつぶれる国、生き残る国

2020年03月18日(水)19時30分

訪問した武漢で感染対策の成果を誇った習だが…… XIE HUANCHI-XINHUA-REUTERS

<パンデミックの脅威は2008年の世界金融危機に匹敵する不況の引き金を引いた――予想される今後の各国経済のシナリオと、賢明な生き残り策とは>

新型コロナウイルスは、その致死性をはるかに上回る反応を世界中で巻き起こし、2008年の世界金融危機レベルの不況の引き金を引いた。いくつかの国では、これは政権にとって致死性のものとなるだろう。

日本では、7年に及ぶアベノミクスが振り出しに戻ろうとしている。これまで日本経済を大きく支えた円安は、わずか2週間で約10円も円高へ逆戻りとなった。アメリカで金融恐慌が生じて経済が縮小すれば、日本の輸出減少は決定的なものとなる。株価は下がり、またデフレ経済が戻ってくる。

しかも今回は、もはや日銀と政府に金融緩和や財政拡大の余力がない。それでも、今の野党には総選挙を迫る力はないため、もっぱら自民党内の力学が安倍政権の去就を決めることになる。

アメリカでも株式市場の崩落が起きつつある。それが債券市場に及べば、15兆ドルを上回る企業債務が不良債権化して銀行の貸し渋りを生み、2008年並みの金融不況を起こすのではないか。アメリカには、トランプ大統領の選出に影響力を及ぼした中西部の白人(旧)中産階級も含め、年金資産を株で運用する人々が多い。そのため、株式市場の崩落は再選を目指すトランプにとって致命傷となり得る。

中国経済は恒常的な低成長時代へ

もっとも、それでアメリカ経済の没落やドルの地位喪失が起きるわけではない。リーマン・ショック時と同様に、世界中の企業は決済(その多くはドルベース)のためにドルを求めて狂奔することになるからである。だからアメリカはまた、ドル紙幣をジャブジャブ発行し、ドーピングよろしく経済を再活性化させていくことだろう。

中国は、それより深刻な状況にある。アメリカによる高関税政策、先端技術の移転規制、そして新型コロナウイルスと立て続けに打撃を受けたことで、中国の輸出の約半分を支える外国企業に、「中国で輸出向け生産をすることのリスク」を意識させてしまった。既に中国の輸出は減少しており、これまでの高度成長の「原資」であった貿易黒字は、今年に入り赤字に転じている。習近平(シー・チンピン)政権は、国有企業に政治的な号令をかけることで困難を乗り切ろうとしているが、それでは救いにならない。

中国経済はこれから恒常的に低成長に転ずる可能性が高い。これまでの中国は、その急速な台頭で地域、そして世界の力のバランスを揺さぶってきたが、今度はその停滞が国内、そして周辺地域を不安定化させることになるかもしれない。「一帯一路」も、これまでの勢いを保つのは難しい。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ECB、金利の選択肢をオープンに=仏中銀総裁

ワールド

ロシア、東部2都市でウクライナ軍包囲と主張 降伏呼

ビジネス

「ウゴービ」のノボノルディスク、通期予想を再び下方

ビジネス

英サービスPMI、10月改定値は52.3 インフレ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に「非常識すぎる」要求...CAが取った行動が話題に
  • 4
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 9
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 10
    もはや大卒に何の意味が? 借金して大学を出ても「商…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story