コラム

首相退陣目前の「石破談話」は、「河野談話」の二の舞になりかねない

2025年09月17日(水)17時56分

「自ら守れない談話」を出す責任

それではこの「自らが守ることができない談話」は、その後にどのような影響を残したのか。第一に指摘すべきは、談話が示した日本政府の見解が、現在まで慰安婦問題に関わる公式見解として維持されていることである。その意味で、河野談話は日本政府の慰安婦問題への姿勢をつなぎとめる「碇」の役割を果たしている。

とはいえ、この談話にはもう1つの側面がある。それは同じ自民党内部において河野氏と対立する政治家らにとって格好の攻撃目標になったことだ。彼らにとって河野氏や宮沢氏は失政により政権を失った「戦犯」であり、にもかかわらず河野氏自身がその後自民党総裁の地位を占めたことは大きな反発を生んだ。90年代半ばに始まった若き安倍晋三氏らによる慰安婦問題の提起は、一面では河野氏を中心とする「宏池会」への反対運動だった。

こうして河野氏の矜持とは裏腹に談話は政敵たちの反発を生み、それが慰安婦問題のバックラッシュ、反動の一因となる。だとすれば、退任直前、自民党総裁選を目前とする中での石破氏の「戦後メッセージ」が同様のバックラッシュを生む可能性はないのだろうか。

石破氏は自らのメッセージをいかにして守ろうと考えているのか。「退任寸前の政治家のメッセージ」が持つ意味について、改めて考える必要があるだろう。

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プロフィール

木村幹

1966年大阪府生まれ。神戸大学大学院国際協力研究科教授。また、NPO法人汎太平洋フォーラム理事長。専門は比較政治学、朝鮮半島地域研究。最新刊に『韓国愛憎-激変する隣国と私の30年』。他に『歴史認識はどう語られてきたか』、『平成時代の日韓関係』(共著)、『日韓歴史認識問題とは何か』(読売・吉野作造賞)、『韓国における「権威主義的」体制の成立』(サントリー学芸賞)、『朝鮮/韓国ナショナリズムと「小国」意識』(アジア・太平洋賞)、『高宗・閔妃』など。


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