コラム

チャリティーへの寄付品すら盗む人々...荒れたイギリスが悲しい

2025年04月29日(火)15時40分

僕はかなり物をため込むたちなので、何であれ処分するのには苦労する。それらがちゃんと行くべきところに行くことが分かっているとありがたい。だからこそ、大学でこれから古典を学ぶという友人の娘にギリシャ史や古典演劇の古い本を譲れたのはとても嬉しかった。何年も読まれずに本棚に置いておく代わりに、新たな使命のため本を送ったのだ。

反対に、特別な額縁に収めた浅草の「版画」を15年前に捨てなければならなかったときは、心が痛んだ。誰も引き取り手がいなかったのだ。とてももったいないと思ってしまった。


だから、チャリティーショップはこの点で僕の助けになる。僕は物を譲ることができ、それを欲しい人に見つけてもらえるだけでなく、わざわざこうした取引を仲介する価値を感じられるような機関に、ちょっとしたお金を寄付できる。

チャリティーボックス前に置いた僕の寄付品に起こったことを見て、僕は不快なショックを受けた。翌朝、電車に乗ろうと急いで向かう途中、それらが歩道に散らばっているのを見つけてしまったのだ。さらにひどいことに、少し雨が降っていて今や全部びしょ濡れになっていたので、たとえ誰かがその日回収に来たとしても、わざわざ拾ってきれいにして販売しようとはしないだろう。もはやそれらはゴミになり、それこそ僕が避けたかった事態だった。

僕はたまたまこのことを、「イギリス社会の新底値的サイテーな出来事」だと姉に話した。彼女はむしろ、いったい何を期待してたの?と僕を笑った。彼女は、この手のチャリティーボックスを誰か親子連れが開けて、子供を吊り下げて中の物をあさらせているのを見たことがある、と話した。

言っておくが僕は貧困地区や荒れた公共団地に住んでいるわけではない。イングランド南東部の繁栄した都市に暮らしているのだ。僕の姉は犯罪率も失業率も低い、さらに「上級」な地区に住んでいる。

日本ではこの手のことはないだろうが

というわけで、先述のとおり、僕はこれをどう解釈すればいいか分からない。僕の直感では、イギリスは単純に反社会的な問題を抱えている。道徳心に欠ける人はどこにでもいるものだ。

この手のことが当たり前どころかほとんど起こることもない日本と、自分の国イギリスとを比べずにはいられない。

でもこの出来事はもしかすると、何か別のことを教えてくれるのかもしれない。価値あるものを大量に抱えてはそれらを捨て続けるばかりの僕のような人々もいれば、一方ではそうした品を必死で欲しがり、これこそ何より自分に必要な「寄付品」だと判断する人々もいる、ということだ。

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プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

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