コラム

ラグビーW杯の日本躍進は奇跡でも偶然でもない

2019年11月01日(金)16時20分

対スコットランド戦で勝利して決勝トーナメント進出を決めた日本代表(10月13日) Kevin Coombs-REUTERS

<イギリス人なのにラグビー嫌いの筆者をラグビー好きに変えたのは4年前の日本戦だが、今回の日本大会はラグビーそのものを変え、世界の目を日本に向けさせた>

ラグビーワールドカップ(W杯)を見るのを心から楽しんでいる。友人たちは、僕が試合を見に日本に行くだろうと思っていたようだけれど、むしろ自宅で録画を活用したほうが実際のラグビーの試合をより多く見られることに僕は気付いている。混雑した電車に乗ることもないし、ホテル探しも必要ないし、スタジアムで1試合を見てから直後に始まる次の試合を見るためスポーツバーをバタバタと探し回る、なんて羽目にもならずに済む。しかも、大イベントの期間中よりも、日本旅行に適した時期はいくらでもある。

だから、今から述べるのは、大勢のラグビーファンにもまれながら現地で実感したことではなく、遠いイギリスの、自宅ソファーで考えたことだ。

まず、僕がラグビーに本格的に目を向けるようになったきっかけは、4年前の日本チームであり、その日本は今回のW杯でも本当によく戦った。それまで僕は、時にはラグビーを見ることもあるという程度だったけど、そんな僕がラグビーの可能性に心底ワクワクさせられたのは、イングランドのブライトンで行われた「あの試合」だった。

そんな分かり切ったことを、と言われそうなのを承知で述べるが、今大会で日本が見せた大躍進を「奇跡」などと言うべきではない。大舞台でラグビー強豪国3カ国に次々勝利したら、それはもはや偶然でも奇跡でもないのだ。立て続けにアイルランドとスコットランドを下すことで、日本チームは4年前の対南ア戦が決してまぐれではなかったことを証明し、「ティア1(強豪国)」とか「ティア2」とかの概念を打ち砕いている。4年前、日本代表は僕をラグビーファンに変えてみせた。今大会、日本代表はラグビーそのものを変えたと僕は考えている。

余談だが、僕が思い切ってこんなことを言えるのは、今大会ではイングランドが非常に順調に勝ち残っているから。とはいえ、今大会での日本の躍進はつまり、2015年のイングランドが「ラグビーワールドカップ史上唯一、決勝トーナメントに進めなかった開催国」の座に残り続けることを意味するのだ。

日本の台風の過酷さが初めて認識された

2つ目に考えたのは、この大会で、ヨーロッパの人々が台風についてこれまでより認識を高めたことだ。これは個人的な話だが、僕が日本に住んでいた頃、イギリスにいる人々が台風の深刻さをちっとも分かってくれなかったのが困りものだった。台風のせいで家に3日間足止めされた、と言っても彼らは理解できない様子だった。

彼らはイングランドの雨降りの日のようなものを思い浮かべ、多少の風が吹くなかで僕が「住宅」でくつろいで本でも読んでいるとでも思っているようだった。実際には、荒れ狂う自然災害のさなか、ガタガタ揺れる小さな木造アパートに閉じ込められて、5分先のスーパーに牛乳とパンを買いに出ることさえできない状態だったというのに。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米5月PPI、前月比0.2%下落 昨年10月以降で

ビジネス

米新規失業保険申請、1.3万件増の24.2万件 1

ワールド

ドイツ連立与党、国民の不満が過去最高=世論調査

ビジネス

スリランカ向け支援、IMFが2回目の審査承認 経済
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:姿なき侵略者 中国
特集:姿なき侵略者 中国
2024年6月18日号(6/11発売)

アメリカの「裏庭」カリブ海のリゾート地やニューヨークで影響力工作を拡大する中国の深謀遠慮

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 2

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車の猛攻で、ロシア兵が装甲車から「転げ落ちる」瞬間

  • 3

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を締め上げる衝撃シーン...すぐに写真を撮ったワケ

  • 4

    カカオに新たな可能性、血糖値の上昇を抑える「チョ…

  • 5

    毎日1分間「体幹をしぼるだけ」で、脂肪を燃やして「…

  • 6

    国立新美術館『CLAMP展』 入場チケット5組10名様プレ…

  • 7

    長距離ドローンがロシア奥深くに「退避」していたSU-…

  • 8

    ジブリの魔法はロンドンでも健在、舞台版『千と千尋…

  • 9

    ウクライナ軍がロシアのSu-25戦闘機を撃墜...ドネツ…

  • 10

    【衛星画像】北朝鮮が非武装地帯沿いの森林を切り開…

  • 1

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思っていた...」55歳退官で年収750万円が200万円に激減の現実

  • 2

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車の猛攻で、ロシア兵が装甲車から「転げ落ちる」瞬間

  • 3

    認知症の予防や脳の老化防止に効果的な食材は何か...? 史上最強の抗酸化物質を多く含むあの魚

  • 4

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開する…

  • 5

    堅い「甲羅」がご自慢のロシア亀戦車...兵士の「うっ…

  • 6

    カラスは「数を声に出して数えられる」ことが明らか…

  • 7

    「クマvsワニ」を川で激撮...衝撃の対決シーンも一瞬…

  • 8

    毎日1分間「体幹をしぼるだけ」で、脂肪を燃やして「…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃が妊娠発表後、初めて公の場…

  • 10

    我先にと逃げ出す兵士たち...ブラッドレー歩兵戦闘車…

  • 1

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に

  • 2

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 3

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 4

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が…

  • 5

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 6

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 9

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思ってい…

  • 10

    我先にと逃げ出す兵士たち...ブラッドレー歩兵戦闘車…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story