コラム

スポーツを侵食する新時代ギャンブル

2017年08月25日(金)14時30分

僕の人生の中で、ギャンブルの規制緩和と蔓延はイギリスにおける大きな変化の1つだ(スポーツの賭けが盛んになったのはそのうちの1つの側面にすぎない。賭博ゲーム機の普及は全く別の問題だ)。より多くの人々が、より多くのものに賭けるようになっていて、その方法もテクノロジーも昔とまったく違うので、1世代前の賭け事とは比べることができない。

明らかに、ギャンブル依存症者は試合中に賭けることでさらに強い興奮を味わいたいとの欲求が抑えられなくなるだろう。そして予想に反した試合展開になっていくと、「取り戻してやる」という気持ちが強まり、理性が入り込む余地がないまま負けはますます大きくなり、ますますスピードを増す。

そして明らかに、ギャンブルは以前よりずっと手軽になった。賭け屋に行ったり、電話したりする必要すらない。パブから賭けられるだけではない。親戚の集まりの最中にトイレから、ディナーのテーブルからこっそりと、賭けることだってできる。あるいは例えば、みんなが寝静まっている時間に、オーストラリアの競馬や日本のJリーグの試合で賭けることもできる。

【参考記事】ケンブリッジ大学出版局が中国検閲受け入れを撤回

あるイギリスのブックメーカーを見てみたら、J2のレノファ山口対ザスパクサツ群馬戦の60種類もの賭けが提示されていた(「両チームが得点して群馬が勝つ」にオッズ7倍、など)。この両チームについていえば、イギリスにレノファ山口のファンがたくさんいるわけもなく、J2について少しでも知っている人間がいるとすら思えない。ギャンブル好きの人々がいるから、この賭けが存在するのだ。

僕が出会った若い男たちが問題を抱えたギャンブラーだとか、将来そうなりそうだと言うつもりはない。しかし彼らの文化的な「規範」は、ギャンブルをあまりやらない僕たち世代の大半のものと異なっているのは間違いない。彼らのうちある程度の確率の者が必要以上にギャンブルに走り、さらにそのうちのある程度の確率の者が完全に溺れてコントロールを失うだろう。とかくギャンブル産業は、「確率」から利益を吸い上げるのが得意なのだ。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
 ご登録(無料)はこちらから=>>

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン、イスラエルへの報復ないと示唆 戦火の拡大回

ワールド

「イスラエルとの関連証明されず」とイラン外相、19

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、5週間ぶりに増加=ベー

ビジネス

日銀の利上げ、慎重に進めるべき=IMF日本担当
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 4

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 5

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 9

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story