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イスラエルがヨルダン川西岸で道路建設加速、「葬り去られる」パレスチナ国家樹立の希望

2025年10月03日(金)13時55分

10月2日、トランプ米大統領がパレスチナ自治区ガザで続く戦闘の終結を目指す和平案を発表し、パレスチナ国家樹立への道筋を示唆した今週、イスラエル占領下のヨルダン川西岸に住むアシュラフ・サマラさんは、ブルドーザーが国家樹立への希望を葬るのを見ていた。写真はヨルダン川西岸ラマラ近郊のバイパス建設現場。9月撮影(2025年 ロイター/Ammar Awad)

Mohammed Tarokman Ammar Awad

[ラマラ近郊(ヨルダン川西岸)2日 ロイター] - トランプ米大統領がパレスチナ自治区ガザで続く戦闘の終結を目指す和平案を発表し、パレスチナ国家樹立への道筋を示唆した今週、イスラエル占領下のヨルダン川西岸に住むアシュラフ・サマラさんは、ブルドーザーが国家樹立への希望を葬るのを見ていた。

武装した警備員に守られたイスラエルのブルドーザーは、ユダヤ人入植者用の新しい道を作るため、サマラさんが住むベイト・ウル・アル・ファウカ村周辺の土地を土を押しのけて寸断。パレスチナ人の移動を妨げる新たな障壁を作り出した。

「住民がこの土地に来て利用するのを妨げるためだ」と、村の評議会のメンバーであるサマラさんは言った。パレスチナ住民は自分たちが住む地域に閉じ込められ、「村や居住コミュニティー間を移動できなくなる」という。

ユダヤ人入植者の移動用の新しい道路は、パレスチナ人は通常使用を禁じられている。新しい道路ができる度、西岸地区のパレスチナ人は近くの町や職場、農場への移動が困難になる。

<パレスチナ国家承認>

英仏を含む欧州主要数カ国が9月にパレスチナ国家を承認し、承認国は増加している。一方で、ガザ紛争が激化する中、ネタニヤフ政権下でヨルダン川西岸のイスラエル入植地は一段と拡大している。

パレスチナ人や多くの国は、入植を国際法上の違法行為とみなしている。イスラエルはこれに異議を唱えている。

イスラエルの活動家グループ「ピース・ナウ」のハギット・オフラン氏は、ベイト・ウル・アル・ファウカ周辺で建設中の新しい道路は、イスラエルがパレスチナの土地支配を拡大するための布石だと述べた。

「彼らは既成事実を作るためにやっている。力と金にものを言わせている」

イスラエルは、2023年10月の武装勢力ハマスの攻撃以来、西岸地区の道路建設に70億シェケル(約3100億円)を割り当てたという。

イスラエルが1967年の戦争でヨルダン川西岸を占領して以来、規模と数を拡大してきた入植地は、イスラエル管理下の道路やその他のインフラに支えられながら奥深くまで広がってきた。

イスラエルの人権擁護団体ベツェレムは2004年の報告書で、数十年かけて建設されたこれらの道路網や入植地へのバイパスを「イスラエルの差別的道路体制」と表現した。同団体は、一部道路はパレスチナ人の都市開発を防ぐための物理的な障壁として設置されたとしている。

ネタニヤフ首相府やイスラエル軍、入植者団体であるイシャ評議会は、コメントの要請にはすぐに返答しなかった。

トランプ大統領のガザ和平案が発表される前の9月、ネタニヤフ首相は「パレスチナ国家が存在することは決してない」と宣言。西岸の入植地マアレ・アドミムとエルサレム間の入植地を拡大する計画を承認した。

イスラエルのスモトリッチ財務相は、この計画によりパレスチナ国家という考えを「葬り去る」と述べた。

ネタニヤフ氏が支持したトランプ氏の和平案は、パレスチナ国家への潜在的な道筋を示しているが、国家樹立を確約するには程遠いとアナリストは指摘する。

前出のオフラン氏は、「政府が今やっているのは、ヨルダン川西岸に100万人の入植者を呼び寄せるためのインフラ整備だ。道路がなければ、それはできない。道路があれば、やがて、ほとんど自然に入植者がやってくるだろう」

ロイター
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