米人権報告書、イスラエルなどへの批判緩和 対立国に厳しい評価

8月12日、米国務省が発表した世界の人権状況に関する2024年版報告書は分量が縮小された。米首都ワシントンで7月11日撮影(2025年 ロイター/Annabelle Gordon)
Daphne Psaledakis Humeyra Pamuk
[ワシントン 12日 ロイター] - 米国務省は12日、世界の人権状況に関する2024年版報告書を発表した。第2次トランプ政権で初となる今回は、全体的に分量が減り、これまで人権侵害を指摘していた国のうち、エルサルバドルやイスラエルなど、トランプ大統領の強力なパートナーとなっている国に対する批判を大幅に抑えた。
バイデン前政権の報告書は「LGBTQI(性的少数者)」の権利の扱いについて各国政府を批判していたが、今回はほとんど省略された。
また欧州における言論の自由の侵食に警鐘を鳴らし、政権が多くの問題で衝突してきたブラジルと南アフリカへの批判を強めた。
ロシアによるウクライナ侵攻を「ロシア・ウクライナ戦争」としている。
<ガザ人道危機に触れず>
イスラエルに関するセクションは前年版よりもかなり短く、パレスチナ自治区ガザにおける深刻な人道危機や死者数については全く触れられていない。
政府関係者によると、トランプ氏が任命した当局者が「米国第一」主義の価値観に沿わせるために国務省の草案を劇的に変更したため、報告書の公表が数カ月遅れた。
エルサルバドルについては「重大な人権侵害の信頼できる報告はなかった」と記述した。23年版では「重大な人権問題」に触れ、不法または恣意的な殺害、拷問、過酷で生命を脅かすような刑務所環境についての信頼できる報告を列挙していた。
エルサルバドルは、トランプ政権の不法移民国外追放の受け皿となっており、米国との関係は改善した。
元国務省当局者で非政府組織「A New Policy」のディレクターを務めるジョシュ・ポール氏は「この報告書は政治的意図が事実よりも優先された場合に何が起こるかを示している」と語った。
国務省のブルース報道官は、報告書について、再構成して読みやすくなり、もはや「政治的に偏った要求や主張」を列挙したものではなくなったと説明した。個別の国に関する質問には回答を控えた。
<対立する国に厳しい評価>
今年の報告書は、トランプ氏がかねて批判しているブラジルと南アフリカについて人権状況が悪化したと指摘した。
ブラジルでは、ボルソナロ前大統領がクーデターを画策したとして罪に問われているが、トランプ氏は「魔女狩り」と非難している。報告書は、ブラジルの裁判所を批判し、裁判所が言論の自由を損ない、とりわけジャイル・ボルソナロ前大統領の支持者らの言論を不当に抑圧する措置を取ったと指摘した。
アフリカーナーと呼ばれる白人を差別しているとトランプ氏が非難する南アフリカについて、報告書は「アフリカーナーの土地収用と国内の少数民族に対するさらなる虐待に向けて、非常に憂慮すべき措置を取った」と指摘した。
南アフリカ政府は、報告書の内容は不正確で失望させられると指摘。「国連人権理事会を離脱し、多国間査読制度においてもはや自らに責任があるとは考えていない国が、正当な手続きや対話なしに一方的で事実無根の報告書を作成しようとするのは皮肉だ」とした。