アングル:イラク国民、電力網不安定で太陽光発電に転換

猛暑が続くイラク。小麦農家のアブダラ・アル・アリさんは、頻繁に停電するにもかかわらず高額な電力料金の支払いにうんざりして、灌漑(かんがい)システムを稼働させるために太陽光発電パネルの利用に切り替えた農家の1人だ。写真は太陽光パネルを設置した農場。7月30日、モスルで撮影(2025年 ロイター/Khalid Al-Mousily)
Khalid al-Mousuly
[モスル(イラク) 5日 ロイター] - 猛暑が続くイラク。小麦農家のアブダラ・アル・アリさんは、頻繁に停電するにもかかわらず高額な電力料金の支払いにうんざりして、灌漑(かんがい)システムを稼働させるために太陽光発電パネルの利用に切り替えた農家の1人だ。
イラクは石油輸出国機構(OPEC)の加盟国で世界有数の産油国であるにもかかわらず、米国が主導したイラク戦争でフセイン政権が2003年に崩壊して以来、国民にエネルギーを安定供給するのに苦しんできた。
フセイン政権の崩壊後に続く混乱で、国営の電力網は投資不足と設備の管理不備のため需要に対応できない状態に陥っている。
ロイターの記者が北部の農業地帯ニネベ県のモスルで目撃した状況によると、夏は気温が40度を超える日もあるのに、電力が供給される時間は1日のうちわずか半分程度にとどまる。
アル・アリさんは毎月の電気料金はかつて約100万イラクディナール(11万円)だった。太陽光発電を導入してからは、国営の電力網に対する支払いが8万イラクディナールに減り電力供給も安定したと述べた。「農家は電気料金を減らして灌漑用ポンプの負荷を軽くするために太陽光発電に切り替えている。この電力は安定している」と語った。
イラクは石油資源に恵まれているだけでなく太陽光発電の潜在力も大きい。政府当局は供給と需要のギャップを埋め、同時に二酸化炭素の排出量を削減するために太陽光発電を活用すると述べている。
電力省によると、イラクは30年までに太陽光発電の発電容量を12ギガワット(GW)に拡大する計画で、今年中にバスラに1GWの太陽光発電所を建設する予定だ。
電力相の1月時点の見積もりによると、25年の夏のピーク電力需要は55GWに達すると予想されているが、供給はわずか27GWにとどまる。
<市民の力>
政府の対応を待たずに行動を起こした市民はアル・アリさんだけでない。
ニネベ県一帯の農家が、建物の屋上や農地に設置した太陽光発電パネルを活用して、灌漑システムや家庭用電力需要をまかなうことができる。
都市部では発電効率を最大化するため、モスルの家屋に特徴的な平らな屋根の上にパネルが密集して設置されている。
モスル在住の農業技師ハッサン・タヘルさんは、太陽光発電に切り替えて家庭生活が一変したと話した。「電気料金は今やとても安くなり、パネルが屋根の断熱材としても機能してキッチンの暑さも和らいだ」とロイターに語った。
需要の急増は地元企業にも及んでいる。
太陽光発電システムの設置会社「モスル・ソーラー」を経営するモハメド・アル・カッタンさんは、特に農村部からの関心が24年から25年にかけて急拡大し、顧客の70%が農村地域に住んでいると話した。
太陽光発電システムのコストは徐々に下がっているが、依然として500万―1000万イラクディナール(約3800―7600ドル)かかり、平均的な5―6キロワットのシステムで約500万イラクディナールだ。
初期費用を1―3年で回収できる上にほとんどのシステムは15年の保証が付いていると話す利用者が多い。
二酸化炭素やその他の汚染物質を大量に排出する高価なディーゼル発電機を使う必要もなくなるという。
アル・カッタンさんは「太陽光発電システムはディーゼル発電機と比べると、コストが2年以内に回収できるし、システムは30年間持つ」と語った。
国営電力会社ニネベ支社幹部のアフマド・マフムド・ファティ氏は、設置された太陽光発電システムはオフグリッド型、つまり所有者はエネルギーをほぼ自給自足していると述べた。
利用者が国営電力会社に支払うのは、夜間に送電網を利用する分だけ。日中に高電圧ポンプを使用し、夜間は電力を必要としない農民にとってとりわけ魅力的だ。
太陽光パネルを販売するサマ・アル・シャルク社のオマル・アブドゥル・カリーム・シュクル社長はロイターに対して、中・低所得層の市民も政府の支援策によって太陽光発電システムを購入していると語った。
中央銀行も市民向けに太陽光パネル購入のための低利融資を開始しているが、アル・アリさんは利用していない。
「私は農家として、購入費用を自力でまかなっている。中銀の融資制度など政府の支援があると聞いたが、活用したことはない」と話した。