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「日本がハリウッドに侵略」──バブル絶頂期、米国を震わせた34億ドルの衝撃【note限定公開記事】

Japan Invades Hollywood

2025年8月10日(日)08時00分
ニューズウィーク日本版編集部
AKU KURITAーGAMMA-RAPHO/GETTY IMAGES (MORITA)

AKU KURITAーGAMMA-RAPHO/GETTY IMAGES (MORITA)

<米企業や不動産に殺到するジャパンマネーに、アメリカの人々は言いようのない恐怖を覚えた>

時はバブル崩壊前夜。本誌米国版1989年10月9日号は、ソニーによるハリウッドの代表的映画会社コロンビア・ピクチャーズ・エンターテインメント(現ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント)買収の衝撃を「日本がハリウッドに侵略」と題した特集で報じた。日本企業によるアメリカの「文化の殿堂」の買収は脅威と受け止められ、ジャパン・バッシングの嵐が吹き荒れた。

当時のアメリカの反発は、今年の日本製鉄によるUSスチール買収騒動を想起させる。89年10月に三菱地所がニューヨークのランドマーク、ロックフェラーセンターを傘下に入れたが、ドナルド・トランプ米大統領はこの頃、好景気に沸く日本の企業や投資家がニューヨークの不動産市場に押し寄せるのを目の当たりにし、今も当時の対日観を根強く抱いているともいわれる。

アメリカの「魂」が買われた

9月28日の晩。テレビの人気トークショーの司会者ジョニー・カーソンは番組の冒頭で、日本式444に言った。「こんばんは。私ごとき者の番組にようこそ。実はたった今、私どもはソニーに買収されまして」

もちろん冗談。スタジオに集まった観客は笑いで応じたが、その笑いはどこかぎこちなかった。何しろ前日には、ソニーがハリウッドの代表的映画会社の1つ、コロンビア・ピクチャーズ・エンターテインメントを買収していたのである。

日本企業による米社買収としては空前の規模。買収金額34億ドル(ほかに債務の肩代わり分が12億ドル)で、コロンビアはコカ・コーラ社からソニーの手に移ることになった。

このニュースは、直ちに全米のテレビやラジオを駆け巡った。今度日本人が買ったのは、どこぞの建物とは違う。アメリカ人の魂とでも呼びたいものだ。これでソニーは、映画製作への進出を果たすだけではない。『アラビアのロレンス』(アメリカ文化の遺産だ)などの名作を含む映画2700本とテレビ番組260本も手に入れることになる。

ソニーは今後もコロンビアの経営をアメリカ人に任せると発表した。だが強い円にものをいわせて映画作りに金を出し、大物プロデューサーを支援し、映画製作会社を買い取ろうとする日本人が続々とハリウッドに押し寄せている。ソニーは今度の買収劇で、その先頭に立った。

それはまた、数年前から形を変えては繰り返されてきたメッセージを改めて確認することにもなった──アメリカは少しずつ、その経済的運命を日本の手に握られつつある。半導体から高品位テレビまで、死活的に重要な技術でアメリカは日本のリードを許してきたが、日本の次期支援戦闘機FSXの開発には手を貸す羽目になった。日本の対米製品輸出はアメリカの対日輸出を500億ドル以上も超過している。

1988年だけで日本人は、アメリカで約165億ドル相当の不動産を買いあさり、株式には130億ドル近くも投資した。サンフランシスコの名門ホテル、マーク・ホプキンズは日本企業の支配下にあり、あのティファニーも部分的にはそうだ。

ソ連の軍事力よりも脅威

日本の経済力増大を、なぜそんなに恐れるのか。そう言われても、たいていのアメリカ人はうまく説明できないだろう。しかし、脅威を感じていることは確かだ。

経営はアメリカ人に任せるとソニーが確約しても、本誌世論調査によれば米国民の43%はコロンビア買収を「悪い」ことと考えている。「良い」という回答は19%にすぎない。またソ連の軍事力より日本の経済力のほうが脅威だとする者は半数を超えた。

過半数は日本の通商政策を不公正と見なし、日本政府が市場開放努力を怠るなら日本製品不買も辞さずとする回答が60%に達している。

今やアメリカ中で、日米関係の枠組みの見直しが始まっている。戦後ほぼ一貫して、両国はソ連に対する共通の恐怖心を絆に結ばれてきた。だが冷戦が終わろうとしているかにみえる今、両国関係の焦点は経済的な競合に移りつつある。

今や東京在住者も含め、米政府当局者や日本学者は伝統的な日米同盟重視論者と見直し論者(リビジョニスト=貿易その他の経済問題で、より強硬な路線を選択しようとする者)に二分されようとしている。

大衆レベルでは、どちらの側でも古い偏見が息を吹き返している。アメリカでは「ジャップ」という言葉の聞かれる機会が増え、日本人に対する否定的な固定観念(新作映画『ブラック・レイン』に見られるような)がもてはやされている。

※本文中のファクトは本誌米国版に記事が掲載された当時のままとしています。

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【note限定公開記事】「日本がハリウッドに侵略」──バブル絶頂期、米国を震わせた34億ドルの衝撃


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