ニュース速報
ワールド

焦点:マスク氏の新党構想、二大政党制の打破には長くて高い壁 

2025年07月09日(水)15時17分

 米国で新たな政党を立ち上げることは、たとえ世界有数の富豪でも難しい。写真はイーロン・マスク氏のイメージと新党名。7月7日、ボスニア・ヘルツェゴビナのゼニカ市で撮影(2025年 ロイター/Dado Ruvic)

James Oliphant Bo Erickson

[ワシントン 8日 ロイター] - 米国で新たな政党を立ち上げることは、たとえ世界有数の富豪でも難しい。米電気自動車大手テスラと航空宇宙企業スペースXを率いるイーロン・マスク氏は、トランプ大統領との関係が悪化したことを受け、新党結成を計画していると表明。自身のプラットフォームX(旧ツイッター)で「アメリカ党」の設立を発表した。目的は、トランプ氏の大型減税・歳出法案を支持した共和党議員を打倒することだという。

マスク氏は新党を技術中心、財政規律重視、エネルギー推進、中道と位置づけ、民主・共和両党の不満層を取り込むことを目指す。同氏は、米国の債務を約3兆4000億ドル(約510兆円)押し上げると予測される減税法案を批判している。

政治専門家は、米連邦選挙における二大政党制を打破するには巨額の資金と長期的なコミットメントが必要だと指摘する。選挙が州ごとに管理・実施される米国の連邦選挙で足場を築くことは難しく、過去の同様の試みは失敗してきた。

ボストン大のデビッド・ホプキンス政治学教授は「実際に機能する第三党を設立するにはとても大きな壁がある」と指摘。課題として、党のインフラ構築、ボランティアの組織化、投票用紙に記載される認証の取得などをあげる。

トランプ氏に反発し共和党を離党した元フロリダ州選出の共和党下院議員、デビッド・ジョリー氏は、有力な第三党の設立向けた取り組みでこれまで課題となってきた資金力がマスク氏にはあるとみる。

ジョリー氏は「独立勢力に欠けていたのは資金だ」と指摘し、「連邦選挙委員会への届け出以上のことが必要。実際には50州すべてで党を立ち上げる作業となる。本格参入だけで1億ドルはかかるだろう」と語る。

ジョリー氏自身も独立候補として政界復帰を検討したが、二大政党の枠組みにとどまる方が不満を持つ有権者に働きかける上で効果的だと結論づけた。同氏は現在、民主党からフロリダ州知事選への立候補を表明している。

2016年、富豪である元ニューヨーク市長のマイケル・ブルームバーグ氏も、独立候補として大統領選に出馬する考えを、「勝利の可能性はない」として否定した。ジョリー氏は、マスク氏が成功可能な全国政党を築くには10年と、おそらく10億ドルが必要だと見積もる。また、マスク氏の政府効率化部門での働きぶりをみると、同氏は腰を据えて物事に長期間取り組むことはできないだろうとみる。マスク氏はトランプ政権下で数カ月間政府効率化部門に在籍した後、約束したほどの成果を上げられずに辞任している。

ジョリー氏は「我々が見たのは、米国の政治を変えるほどの粘り強さはないマスク氏の姿だ」と語る。

<妨害者としての役割>

マスク氏には、来年の中間選挙に向け、政治活動委員会を通じて共和党現職に対抗する候補を支援するという、より伝統的な道を選ぶこともできた。2024年大統領選の最大の献金者であったマスク氏は、トランプ氏の当選を目標に約3億ドルを寄付した。しかし、同氏の政治的な努力のすべてが報われたわけではなかった。同氏は今年4月のウィスコンシン州最高裁判事選挙に数百万ドルを投じたが、支持した候補は落選。トランプ氏の税制法案を可決しないよう米議会の共和党議員を説得する努力も不発に終わった。

同氏が激戦となっている米下院議員選挙の選挙区で独立候補を支援することがどれほど効果的かは不明だ。

実際、超党派のアナリストによって激戦と見なされている約30の選挙区は、政党や外部の資金調達団体からの資金が潤沢で、通常は候補者自身もイデオロギー的に穏健だ。マスク氏が支援する候補者が他候補との差別化を図ることは難しいだろう。

歴史的に、二大政党以外の候補者は、地域における有権者の組織化や得票に向けた取り組みで苦労してきた。多くの場合、独立系候補は民主党または共和党のいずれかから票を奪う妨害者として機能した。2024年のオハイオ州下院議員選挙では、元民主党下院議員のデニス・クシニッチ氏が独立候補として12%以上の票を獲得。結果は、共和党のマックス・ミラー氏が15ポイント差で勝利した。

6日、トランプ氏はマスク氏の構想を嘲笑し、「第三党はこれまで成功したことがない。彼が楽しむのは自由だが、馬鹿げていると思う」と語った。

マスク氏の構想を難しくしているのは、多くの有権者が同氏を嫌っていることだ。彼が選挙で果たすどんな役割も、議論になるのは間違いない。

ロイター/イプソスの6月の世論調査では、マスク氏を好意的に見ているのは回答者の36%にとどまり、トランプ氏を好意的に見ている42%を下回る。一方、マスク氏を好意的に見ていないのは59%で、トランプ氏の55%を上回る。

しかし、彼の最大の弱点は、トランプ氏の支持者に頼りながら、政治的にトランプ氏に挑戦しようとしていることかもしれない。マスク氏は、昨年11月にトランプ氏に投票した人々の間で最も高い支持率(78%)を得ている。

ジョージタウン大の政治学者ハンス・ノエル氏は「マスク氏自身の人気はそれほど高くなく、彼の支持層は既存の共和党の支持層と大きく重なっている」と指摘。「彼の言う、見過ごされている運動というものは実際には存在しない。アメリカ党の候補者を多数当選させる可能性は低いだろう」と語った。

ロイター
Copyright (C) 2025 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ユーロ相場が安定し経済に悪影響与えないよう望む=E

ビジネス

米製薬メルク、肺疾患治療薬の英ベローナを買収 10

ワールド

トランプ氏のモスクワ爆撃発言報道、ロシア大統領府「

ワールド

ロシアが無人機728機でウクライナ攻撃、米の兵器追
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 3
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 4
    「ヒラリーに似すぎ」なトランプ像...ディズニー・ワ…
  • 5
    犯罪者に狙われる家の「共通点」とは? 広域強盗事…
  • 6
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 7
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 8
    自由都市・香港から抗議の声が消えた...入港した中国…
  • 9
    人種から体型、言語まで...実は『ハリー・ポッター』…
  • 10
    【クイズ】 現存する「世界最古の教育機関」はどれ?
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 3
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸せ映像に「それどころじゃない光景」が映り込んでしまう
  • 4
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、…
  • 5
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 6
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 7
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 10
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 7
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中