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焦点:「黄金時代」約束したトランプ氏、政策実行には高いハードル

2025年01月21日(火)11時38分

 1月20日、トランプ米大統領は就任演説で「米国の黄金時代」実現に向けさまざまな政策を打ち出すと約束したが、実行には相当高いハードルが待ち受けている。写真は就任式後、大統領令に署名し終えてペンを投げるトランプ氏(2025年 ロイター/Brian Snyder)

Gram Slattery Luc Cohen

[ワシントン 20日 ロイター] - トランプ米大統領は20日の就任演説で「米国の黄金時代」実現に向けさまざまな政策を打ち出すと約束したが、実行には相当高いハードルが待ち受けている。議会では共和党が多数派を握っているとはいえ、民主党との議席数が僅差な上、政策に異議申し立て訴訟が相次ぐのは避けられそうにない。世界各国の指導者からの激しい抵抗も予想される。

トランプ氏はまず、一連の大統領令を通じて米国の領土拡張、移民規制や化石燃料の増産、環境保護規制撤廃などに乗り出す方針を示した。

側近や顧問らは、何カ月も前からそうした大統領令や省令の制定作業を進めてきた。彼らが公式ないし非公式の場で語っているのは、2017─21年の第1次トランプ政権時代よりも自分たちの構想を実現する準備が整っているという点だ。当時は共和党内部で対立が起き、政権として明確な展望が欠けていたため、訴訟や議会審議で政策の後退を迫られた。

トランプ氏は今回、連邦最高裁判事が非常に保守的な構成になっていることが追い風になるだろうし、実際選挙戦中にもそのおかげで幾つかの法的な勝利を勝ち取った。現在の9人の判事のうち3人は、トランプ氏自身が指名した人物だ。

もっとも、既に1期目を終えたトランプ氏は、4年後の再選を目指すことはできない。一方で同氏の提案の多くは「掟破り」の色合いが濃く、合衆国憲法の解釈を問うような多種多様な訴訟が起こされるのは間違いない。

環境保護団体シエラ・クラブや人権擁護団体アメリカ自由人権協会(ACLU)などは、トランプ氏の政策差し止めを求める計画を練っているところだ。

<移民問題>

トランプ氏の政策の中で、民主党や人権団体が最も強く反発するのは移民問題だろう。

政権チームは20日、「出生による市民権」の付与を廃止する方針を確認した。この制度は長らく合衆国憲法で裏付けられており、米国で生まれた大多数の人々には自動的に市民権が与えられる。

法律の専門家は、市民権付与を拒否された人たちが訴訟を起こし、その後長期にわたる法廷闘争が展開されるとみている。出生による市民権付与は合衆国憲法修正第14条で保障され、憲法は市民権に関する規制権限を議会に認めている、というのが大半の学者の見解だ。

トランプ氏以前には、大統領令によって市民権のルールを再定義しようとした大統領は誰もいない。

1798年制定の「敵性外国人法」を適用した移民規制というトランプ氏の計画も、法的な異論に直面しそうだ。戦時に特定の外国人を送還するのを認めている同法が実際に使われたのは過去3回しかない。

第1次トランプ政権で国土安全保障省高官を務めたジョージ・フィッシュマン氏は昨年ロイターに、敵性外国人法を利用するにはトランプ政権が移民は外国政府から送り込まれたと証明する必要があると説明。「やや欲張り過ぎの約束ではないかと心配している」と語った。

トランプ氏は就任演説で、犯罪歴のある「何百万人」もの移民を送還すると表明した。しかしこれだけの規模の送還作業には数百億ドルの費用と、何年もの期間がかかってもおかしくない。

<TikTokサービス継続>

トランプ氏による約束のうち、最も不確実性が高いのは中国系動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」の米国事業を継続させるというものかもしれない。

就任演説ではティックトックへの言及はなかったが、同氏は最近、ティックトックのアプリ機能を維持する意向を示唆。19日にはバイデン前政権が打ち出した規制法が発効し、米国の利用者はいったんティックトックのアプリを稼働できなくなったが、トランプ氏が救済に乗り出すと発言した後、機能が復活している。

それでもトランプ氏が駆使できる長期的な選択肢は限られる可能性がある。

元米情報機関職員のコリン・コステロ氏は、バイデン前大統領はティックトックの親会社に一定条件を満たせば米国で買い手を見つけるために規制法発効を90日猶予する措置を講じることができたが、期限延長を認めずに既に失効したと指摘。そうした手段はもはや使えないかもしれないと話す。

コステロ氏によると、規制法の効力を長期間停止するには、トランプ氏が特定期間施行しないよう司法省に直接指示する必要が出てくる。ただこれは法的な部分で不透明感をもたらすだろうという。

議会上下両院でも一部共和党議員は、ティックトックは米企業に売却されるか、即時事業を停止すべきだと主張し、トランプ氏に公然と反対している。

<ウクライナ、パナマ、火星>

トランプ氏は昨年の選挙戦で再三にわたり、自分が大統領になる前にウクライナの戦争を解決すると表明していたが、結局それは成功しなかった。側近らは現在、ロシアとウクライナが和平協定を結ぶには何カ月もかかると認めている。

就任演説ではパナマ運河の管理権を取り戻すとも繰り返したが、同盟国の主権に絡む問題で具体的にどうするのかは分かっていない。

トランプ氏は「メキシコ湾」の「アメリカ湾」への改名にも言及。これは米国地質調査所に指示すれば可能だが、国際的に承認される公算は乏しい。

さらにトランプ氏は、任期を終える2029年1月までに有人火星着陸を目指すと明言したものの、実現に向けた道のりは険しい。参考までに地球と月の距離は約23万9000マイルだが、地球と火星はおよそ1億4000万マイルも離れている。

米航空宇宙局(NASA)は昨年12月、国際月探査「アルテミス計画」の日程を再延期した。

<化石燃料掘削>

トランプ氏は20日、化石燃料増産のための国家非常事態宣言を発すると表明した。法律の専門家によると、大統領には国家非常事態を宣言する幅広い権限があるが、バイデン氏は既にトランプ氏が発動する可能性がある幾つかの手段を阻止する措置を講じた。

例えばバイデン氏は今月、「大陸棚土地法」に基づき、東海岸と西海岸、メキシコ湾東部、アラスカ沖ベーリング海の一部で石油と天然ガスの掘削を禁じた。トランプ氏はこうした禁止措置を撤回するとしているが、専門家は大統領に撤回権限があるのかは定かでないとの見方をしている。

トランプ氏は1期目に、大統領令でアラスカ付近での掘削禁止を解除しようとしたが、連邦地裁はこの命令を違法と判断した。

ロイター
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