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焦点:戦況一変なるか、ウクライナが「国産ドローン」開発強化

2023年03月31日(金)18時38分

 ロシアとの大きな戦力差を埋めるべく、ウクライナ政府は、これまで以上に長距離に及ぶ偵察と敵軍目標の攻撃の双方に関してドローン開発計画を拡大中だとしている。写真はエアロドローンの製造施設。ウクライナ北部で2月撮影(2023年 ロイター/Max Hunder)

[キーウ 24日 ロイター] - ウクライナ北部の地味な工業団地。マイクロソフト元幹部2人が率いるエンジニアたちが製造しているのは、長距離を飛行でき、搭載可能重量の大きな軍用ドローンだ。

この企業、エアロドローンは、ロシアによるウクライナ侵攻の前は農薬散布用のドローンを作っていたが、現在の得意先はウクライナ軍だ。設定次第で、最大搭載重量300キログラム、あるいは数千キロメートルの飛行距離を可能とする無人航空機を製造している。

ロシアとの大きな戦力差を埋めるべく、ウクライナ政府は、これまで以上に長距離に及ぶ偵察と敵軍目標の攻撃の双方に関してドローン開発計画を拡大中だとしている。その野心的な目標の達成に向けて、エアロドローンのような国内製造企業に貢献してほしいというのが政府の願いだ。

ウクライナのレズニコフ国防相はロイターに対し、政府は現在、国内を拠点とする80社以上のドローン製造企業と提携していると語った。国防相によれば、同国政府は何十万機ものドローンを必要としており、その多くを急成長する国内ドローン産業から調達したいと考えている。同相は文書による回答の中で、現在、軍は国内外で製造された数十機種のドローンを「多種多様な」用途で運用している、と説明した。

「ドローンは、昨年西側諸国から提供されたMLRS(多連装ロケットシステム)のように、戦場におけるゲームチェンジャーとしての可能性を秘めている」とレズニコフ国防相は言う。

無人航空機(UAV)などのドローンは、砲撃や歩兵隊、そしてミサイルが主役となっている現在の戦争における1つの要素にすぎない。ロシア政府は、ウクライナ政府が保有しない長距離ミサイルを使って、ウクライナ全土の標的に激しい攻撃を与えている。

ロシア軍との装備の差を縮めることに関して、レズニコフ国防相は「近い将来に戦力が均衡することなど期待すべくもない」と語り、「ロシア側でもUAVの改良に力を入れている」と付け加えた。

<戦力強化>

ウクライナ政府は、今後数カ月の間に西側諸国から供給される戦車や歩兵戦闘車を活用して反攻し、南部・東部でロシア軍に占領された地域を奪還したいと考えている。

ウクライナの経済は戦火で大打撃を受け、政府は国際的な財政支援に頼っている。大規模なロシア軍に反撃する上で、ドローンは比較的低コストの手段だ。ウクライナは2023年に5億5000万ドル(約720億円)近くをドローンに投じると表明しており、軍内部に複数のドローン攻撃部隊を創設した。

ウクライナ国家安全保障・国防会議のダニロフ書記はロイターに対し、2023年に特に力を入れるのは、標的に突入し爆発するタイプの無人機(いわゆる「カミカゼ・ドローン」)だと述べた。

ドローン戦を研究する南デンマーク大学のジェームズ・ロジャーズ教授は、ウクライナのUAV戦力は、依然としてロシアが運用するイラン製のカミカゼ・ドローン「シャヘド136」に比べて見劣りがすると話す。ロシア政府は数カ月にわたり、ウクライナのエネルギー関連施設を標的として「シャヘド136」を使用している。

ウクライナはこれまで、ミサイル搭載可能なトルコ製「バイラクタルTB2」から、33グラムにも満たないノルウェー製偵察ドローン「ブラック・ホーネット」に至るまで、支援国からかなりの数のUAVを受領してきた。

ウクライナ政府は現在、国内での生産を増強しつつある。ウクライナの国防専門家タラス・シュムト氏によれば、昨年の侵攻開始以来、国内での航空ドローンの生産量は3─4倍に拡大した。同氏の試算では、資金や部品の供給が安定していることが前提だが、ウクライナには年間「数千機」のドローン生産能力があることが示された。

シュムト氏が率いる非政府組織(NGO)「カムバック・アライブ」では、航空ドローンを含めたウクライナ軍への装備供給を目的として、クラウドファンディングで数千万ドルを集めたとしている。シュムト氏はさらに、2022年2月以来、ウクライナのドローン保有総数は「数十倍」に増加したと続ける。国内外からの新たな供給のほかに、同氏のNGOのような団体から寄贈されたものもある。

レズニコフ国防相は、ロシアによる侵攻開始以来、ウクライナはドローン製造能力を「数倍」に増強してきたと語り、現在では、陸海空で運用可能なドローンを製造できると述べた。ウクライナ国防省は、ドローン製造のデータについては公表を控えた。

<飛行距離の拡大>

レズニコフ国防相は、力を入れている分野の1つは、これまで以上に飛行距離の長いドローンの開発だと話す。ウクライナ政府は同盟国に対し、数百キロ離れた標的を攻撃できる長距離ミサイルの提供を求めているが、これまでのところ拒否されている。

エアロドローンによれば、同社の機種の1つ「エンタープライズ」は軽飛行機のフレームを活用したもので、条件次第では3000キロ以上も飛行できるという。

同社を経営するドミトロ・シムキウ、ユーリイ・ペドリイ両氏は、マイクロソフトのキーウ支社で働いていたときに出会った。シムキウ氏はウクライナ担当マネジャー、ペドリイ氏も主要部門の責任者だった。

両氏は、エアロドローンとして開示できる内容は軍との契約条件により厳しく限定されているとしながらも、「エンタープライズ」、そして「ディスカバリー」と呼ばれる別の機種は、それぞれ搭載可能重量が300キロ、80キロと大きいため、幅広い戦術目的に利用できると話す。同社が製造する無人機のコストは、機種や仕様にもよるが15万ドルから45万ドル。ロシア側の信号干渉に対抗するため、電波妨害対策システムなどの機能も搭載できる。

2月末にエアロドローンの製造現場を訪問したところ、青い作業着姿のエンジニアたちが、「エンタープライズ」のベースとなる軽飛行機の金属製骨組みの周りを忙しそうに動き回っていた。シムキウ氏は「エンタープライズ」について、「200キロの装備を積んで1200キロ飛行できる」と説明した。

操縦士が乗るために設計されたコクピットを示し、「無人機だから、ここにも装備を搭載する」と語った。

ウクライナ国防省は、エアロドローンとは長距離ドローン2機種の調達契約を結んでいると明らかにした一方で、さらなる詳細については開示を控えた。

国防省は、ウクライナが現在保有するドローンの最大飛行距離については明言を避けたが、国営の大手兵器メーカーは昨年12月、重量75キロの弾頭を積んで1000キロを飛行する攻撃型ドローンの実験に成功したと発表している。

<ロシア領への攻撃はあるのか>

ウクライナが保有するドローンの飛行距離と戦闘能力は機密情報だ。ロシアは、ウクライナ側の複数のドローンが前線を越えてロシア側にまで侵入することに成功したとしているが、ウクライナ当局者は通常、ロシア領における同国のドローン活動については否認している。

ロシアは昨年12月、ウクライナ側のドローンがロシア領内深くまで侵入し、長距離爆撃機が配備されているロシア空軍基地2カ所を攻撃し、空軍関係者3人を殺害したと発表した。

ウクライナ国防省は、「ロシア領内で起きた事件については、ウクライナはまったく無関係だ」とした。

ここ数週間、ロシア当局者は、ドローンの撃墜またはドローンによる攻撃を伴うケースを少なくとも6件報告しており、そのうちのいくつかについてはウクライナによるものと公言している。

ウクライナがドローンを使ってロシア領内の標的を攻撃しているか否かロイターが質問したところ、レズニコフ国防相は、「ロシア領内で起きていることはすべてロシアだけの問題だ。ウクライナはテロ国家ではなく、攻撃を仕掛ける側でもない」と答えた。

国家安全保障・国防会議のダニロフ書記は、攻撃に関する一般論として、理論的には、ある種の状況下ではロシア領内への一定の攻撃は正当化できるとの考えを示した。

ダニロフ氏は2月にロイターの取材に応じた際、「我が国に損害をもたらしている施設があるならば、その施設を破壊しなければならない。それが戦争だ」と語った。「(その標的が)ロシア領内に存在するとしても、それは私たちの責任ではない」

<生産拡大には制約も>

ただし、ドローンの国内生産拡大には課題も残る。国防専門家のシュムト氏は、大量生産を阻む障壁の1つとして、エンジンや通信システムなどの部品を他国からの供給に頼っている点を指摘。同氏とエアロドローンは、税関経由での部品入手が難しくなる可能性に言及している。

軍用の認証を得るためのプロセスも問題だ。レズニコフ氏によれば、国防省ではプロセスの合理化を進め、かつては最長で2年間を要したのが、今では数週間にまで短縮されているという。

エアロドローンを経営するシムキウ氏は、これとは別に、ドローンやドローン用部品など軍民両用の製品を輸入する際の規制を政府が緩和したことで、メーカーは楽になったと語る。とはいえ、官僚主義的な煩わしさ全般を解消するという点ではまだ改善の余地があると同氏は指摘する。

国防省は、国内のドローン製造企業と協力し、生産能力の拡大とともに、修理や訓練の簡素化に向けた製品の標準化に取り組んでいると説明している。

ダニロフ書記は、ドローン用のハイテク部品についてウクライナが他国に依存していることを認める。

「この部門におけるニーズを国内生産で満たそうと努力しているが、何もかも自分たちで、というわけにはいきそうにないと認識している」

(Max Hunder記者、翻訳:エァクレーレン)

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