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焦点:北朝鮮ミサイル発射で注目集まる米国「迎撃」の選択肢

2017年08月30日(水)16時51分

 8月29日、北朝鮮が日本上空を通過する弾道ミサイルを発射したことにより、今後試験発射されるミサイルについて、米政府が迎撃を検討する圧力が高まる可能性がある。写真は北朝鮮によるミサイル発射実験の模様。KCNA提供写真(2017年 ロイター/KCNA)

[ワシントン 29日 ロイター] - 北朝鮮が29日に日本上空を通過する弾道ミサイルを発射したことにより、今後試験発射されるミサイルについて、米政府が迎撃を検討する圧力が高まる可能性がある。ただ迎撃が成功するとの確証はなく、米当局者は、北朝鮮情勢の一段の緊迫化を警戒している。

政府当局者の1人は、今回のミサイル発射を受け、飛行中のミサイルを迎撃する可能性に一段と焦点が当てられるとの見方を示した。

トランプ米大統領が「あらゆる選択肢がテーブルにある」と繰り返し述べる一方で、米国で、直接的な軍事行動に向けて政策が急速にシフトしている兆候はみられていない。

ただ、29日のミサイル発射によって浮き彫りとなったのは、トランプ大統領による厳しい口調、制裁決議、朝鮮半島での軍事力の誇示は、北朝鮮の指導者である金正恩朝鮮労働党委員長の行動を阻止するにはほとんど効果を見せていないということだ。

マティス米国防長官は既に、米国または同盟国の領有区域に対して危険とみなされるミサイルは迎撃すると表明している。不透明なのは、今回のように日本上空を通過したものの同国の領有区域が直接的な脅威を受けなかったミサイルに対し、米政府が多層防衛システムを配備する用意があるかどうかだ。配備された場合、自衛行為というよりも軍事力の誇示とみなされるだろう。

米国防次官補(東アジア担当)を務めたデービッド・シアー氏は「政府の審議では、検討対象となる選択肢の一つだろう」と述べた。

一部のアナリストは、北朝鮮がこうした行為を戦争行為とみなし、韓国と日本に対して壊滅的な被害をもたらす可能性のある軍事的報復を行う危険性があると指摘する。

また、北朝鮮に隣接し主要な貿易相手国である中国が、米国の直接的な軍事行動に反発する可能性も高い。

<迎撃成功の確証なく>

米国が最近行ったミサイル迎撃実験は成功したものの、専門家は、新型迎撃ミサイルTHAAD(サード)などを含む米国のミサイル防衛システムが、標的を撃ち落とす確証はないと指摘する。

米国はミサイル防衛システムの研究と開発に過去18年間で400億ドルを投じてきたが、同システムを戦争が行われている下で配備したことはない。

北朝鮮の拡大するミサイル能力を米軍が防衛できるとの見方に、懐疑的な声もある。

一部の専門家は、米国のミサイル防衛が対応できるのは飛来してくるミサイル1発、もしくは少数だと警告している。北朝鮮の技術と生産が進歩し続ければ、米国の防衛が追いつかなくなる可能性がある。

ワシントンのシンクタンク「38ノース」のミサイル専門家、マイケル・エレマン氏は、迎撃が失敗したとしたら、きまりが悪いことではあるが大きな驚きではないと指摘。「ミサイル防衛はミサイルに対する盾とはならず、言うなれば防空のようなものだ。敵対勢力が与える損害を最小限に抑えるよう設計されている」と語った。

ある匿名の米当局者は、ミサイルが日本または韓国の上空で迎撃された場合に民間人の犠牲者が出るリスクや、北朝鮮による報復措置の可能性を判断することが困難であることから、米軍は直接的な脅威をもたらさないミサイルを撃ち落とすことに特に慎重的だと述べた。

米軍・情報当局者は、米国が軍事行動に踏み切れば、北朝鮮がソウルと在韓米軍をミサイルと大砲で攻撃する可能性があると指摘する。

さらに、米国または同盟国を危険にさらさない北朝鮮のミサイルを狙うことは、法的に問題が生じる可能性もある。北朝鮮の弾道ミサイル開発を禁止する国連安全保障理事会の決議は、こうした行為を明確に認めていない。

(Matt Spetalnick記者、David Brunnstrom記者)

ロイター
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