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アングル:米EV市場、税控除終了で崩壊の恐れ 各社が対応急ぐ

2025年10月02日(木)20時13分

 10月1日、米国で電気自動車(EV)購入時に最大7500ドルの税額控除が適用される制度が9月末で終了したのに伴い、業界は国内のEV販売が激減する事態を覚悟している。カリフォルニア州カールスバッドで5月14日撮影(2025年 ロイター/Mike Blake)

Nora Eckert

[デトロイト 1日 ロイター] - 米国で電気自動車(EV)購入時に最大7500ドルの税額控除が適用される制度が9月末で終了したのに伴い、業界は国内のEV販売が激減する事態を覚悟している。

フォード・モーターのジム・ファーリー最高経営責任者(CEO)は、税額控除終了の数時間前にデトロイトのイベントで「状況を一変させる事態だ」と話した。

ファーリー氏は、米自動車販売全体に占めるEVの比率が10月は5%に落ち込んでも驚かないと述べた。税額控除打ち切り前の駆け込み効果があった8月の半分程度に過ぎず、過去数年で最も低い。

日産アメリカズのクリスチャン・ムニエ会長は「(米国の)EV市場は10月に崩れ落ちるだろう」と警告した。日産自動車は小型EV「リーフ」の新型車を米国へ投入しようとしている。

9月末にインタビューに応じたムニエ氏は、買い手の争奪戦になると予想。「大量の在庫があるので競争は極めて激烈になる。われわれの競争相手は多くのEVを生産した」と語った。

7500ドルの税額控除は2008年に議会で承認され、バイデン前政権時代の「インフレ抑制法(IRA)」の下で、米国内調達の電池や原材料を一定割合使用した「国産」EVに限定する形で延長された。

ところがトランプ大統領が7月に署名して成立した税制・歳出法には、9月末で制度を打ち切ることが盛り込まれた。トランプ政権は、燃費基準未達のメーカーに罰金を科す規則を停止するなど、ほかにもEV販売鈍化につながるような措置を打ち出している。

カリフォルニア大学バークレー校、デューク大学、スタンフォード大学の教授陣が昨年11月に実施した共同調査では、税額控除なしの場合、EV販売は27%減少する恐れがあるとの見通しが示された。

<大量在庫発生の懸念>

現段階でも米国のEV普及率は他の主要市場を下回っている。EVや車載電池、原材料の生産で世界の先頭を行く中国は、ここ数カ月で新車販売に占めるEVとプラグインハイブリッド車(PHV)の比率が40%を超えた。欧州の普及率も20%近くに達する。

一方、米国は税額控除があり、各社が相次ぎ新型車を投入したにもかかわらず、過去2年間EV販売の伸びは減速してきた。コックス・オートモーティブによると、今年上半期のEV販売台数の伸びは前年比わずか1.5%だった。

一部の米販売店は、税額控除廃止で売れ残りが膨らむ事態を心配している。

中西部の販売店グループで最高執行責任者(COO)を務めるスコット・キューンズ氏は、当面メーカーから仕入れるEVを減らし、消費者の需要動向を見定める方針だと明かした。

同じ中西部ミズーリ州のセントルイス地域に販売店を所有し「シボレー」「ジープ」などのブランドを扱うブラッド・サワーズ氏は、比較的低価格のEVは売れ続けるだろうが、最上位モデルの価格が9万ドルに上るゼネラル・モーターズ(GM)の電動ピックアップトラック「シェビー・シルバラード」などの高級EVは苦戦を強いられるとみている。

ロイターは今週、GMとフォードが税額控除廃止の逆風を和らげるため、EVリース契約に同控除を継続的に適用するプログラムを導入していると伝えた。

現代自動車北米部門のランディ・パーカーCEOは、EVの25年型「アイオニック5」の価格を7500ドル、26年型は最大9800ドル値下げしていると説明。「IRAの前にEV市場はあったし、IRAがなくなった後も市場は存在し続ける」と述べた。

スウェーデンのボルボ・カーのホーカン・サミュエルソンCEOは最近のロイターのインタビューで、政府の政策で戦略変更はしないと語った上で「われわれが目指すのはEV企業であり、税額控除ないし他のインセンティブではなく、米消費者にとってより好ましいEVに依拠する」と強調した。

ロイター
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