アングル:エフィッシモ、ソフト99のMBOに対抗、価格の妥当性焦点に

9月17日、カーケア用品のソフト99コーポレーションが実施中のMBO(経営陣が参加する買収)に対し、価格が低すぎると異議を唱えるシンガポールの「物言う株主」エフィッシモ・キャピタル・マネジメントが株式公開買い付け(TOB)に乗り出した。写真は円紙幣。都内で2024年7月代表撮影(2025年 ロイター)
Miho Uranaka
[東京 17日 ロイター] - カーケア用品のソフト99コーポレーションが実施中のMBO(経営陣が参加する買収)に対し、価格が低すぎると異議を唱えるシンガポールの「物言う株主」エフィッシモ・キャピタル・マネジメントが株式公開買い付け(TOB)に乗り出した。MBOが増加する中、東京証券取引所が支配株主取引に関する開示ルールを強化した直後ということもあり、企業価値の評価と価格をめぐる議論に注目が集まっている。
ソフト99株を4.80%保有するエフィッシモはロイターの取材に書面で回答し、「著しく割安な買付価格でMBOが進む中、少数株主の利益を守るには具体的な代替案を示すほかないと考え、TOBに踏み切った」とTOBに乗り出す理由を説明した。さらに「経営課題に十分対処せず株価を低迷させた経営陣が、その株価を前提に著しく割安なMBOで利益を得て、本来少数株主が得るべき利益を収奪されることは望ましいことではない」と強調した。
エフィッシモによると、2007年にソフト99株を取得してから18年以上、株主として資本効率の改善や株価低迷への対応を求めてきた。しかし株主資本利益率(ROE)は一度も株主資本コストを上回らず、株価純資産倍率(PBR)も1倍を超えることはなかったという。
そうした中でソフト99は8月、田中秀明社長が代表取締役の堯アセットマネジメントがMBOを目的としたTOBを発表した。買付価格は1株2465円。今月19日まで買い付ける。一方、エフィッシモは対抗措置としてMBO価格を約66%上回る1株当たり4100円でのTOBを実施すると公表した。TOBは16日から10月29日まで実施する。
エフィッシモは4100円というTOB価格について、DCF(ディスカウント・キャッシュフロー)法による株式価値算定の際に「最適な資本構成を追求し、割引率を低減した」と説明。その結果、経営陣が作成した財務予測をそのまま適用しても4100円は十分に合理的な水準になるとした。
ソフト99は負債が極端に少ないため、借り入れを増やすなど「最適な資本構成」を前提にすると割引率が下がり、評価額ひいてはTOB価格は大幅に上がり得るとの見立てだ。
エフィッシモによれば、割引率低減による株主価値の上昇分は、MBOでは主に買付者に帰属するとされているのに対し、エフィッシモのTOBでは少数株主に配分されることを前提に価格を設定。これが提示価格の差につながったとエフィッシモは主張する。
ロイターはソフト99に見解を求めたが、現時点で回答を得られていない。
ソフト99は17日に提出した訂正意見表明報告書で、同社の特別委員会が「2465円の価格は公正」との判断を維持したことを明らかにした。一方、対抗TOBの4100円がMBO価格を上回るため、取締役会による応募推奨は撤回し、最終判断は株主に委ねるべきとの答申を受けたとした。
東証は7月から、MBOや支配株主による取引について、少数株主保護の観点から手続や情報開示をより厳格にする新ルールを施行している。企業は、自社の価値評価や価格の根拠を株主に対してより明確かつ論理的に説明する責任が一層求められる。
今回のTOBでエフィッシモは非公開化を目的にしていないとし、所有と経営の分離を前提に、社外取締役の比率を3分の2以上とすることや経営陣の報酬体系の見直しなど、ガバナンス改革を促したいとしている。
エフィッシモは、MBOの一環としてTOBを実施中の太平洋工業の株式も買い進めており、17日時点で保有比率を10.45%まで引き上げた。トヨタ自動車などに部品を供給する太平洋工業が提示したTOB価格は1株2050円。25年3月末の1株当たり純資産(BPS)約2911円を下回る。
エフィッシモは現在、川崎汽船、第一生命ホールディングス、リコー、UACJなどを中心に投資し、24社の上場会社に関して大量保有報告書や大量保有報告書に係る変更報告書を提出している。