ニュース速報

ビジネス

アングル:ロンドン高級店に激震、免税廃止で仏・伊に客流出

2023年03月19日(日)08時08分

 3月14日、英国が2020年、外国人買い物客向けの免税措置を廃止した影響で、外国からの客がパリやミラノに流れ始めた。ロンドンのハロッズ店舗前で14日撮影(2023年 ロイター/Toby Melville)

[ロンドン 14日 ロイター] - 英国が2020年、外国人買い物客向けの免税措置を廃止した影響で、外国からの客がパリやミラノに流れ始めた。高級小売店は、ロンドンが人気あるショッピング都市としての地位を失うのではないかと懸念を募らせている。

外国人客に対する付加価値税(VAT)免税措置は、英国が欧州連合(EU)を離脱した際に廃止された。ハント財務相による15日の予算案発表を前に、ハロッズ、ハーベイ・ニコルズ、高級ショッピング地区チェルシーの不動産会社カドガン、レーンズバラ・ホテルなど数百社が、免税措置の復活を求めている。

高級店が軒を並べるナイツブリッジとキングズロードの商業会議所のステーブ・メドウェイ会頭はロイターのインタビューで「店舗の投資先として、パリの方を優先していると言うブランドもある。売り上げを見ての判断だ」と語った。

メドウェイ氏によると、外国人旅行客は英国の国内総生産(GDP)に年間284億ポンド(345億ドル)寄与しており、ナイツブリッジとキングズロードがその大きな部分を占める。

国際的な免税サービス企業、グローバルブルーのデータによると、英国を訪れる米国人旅行客の支出は昨年、コロナ禍前の2019年並みに戻ったが、フランスは19年の256%、イタリアは226%と2倍以上に増えている。

さらに厄介なことには、英国の消費者自体も税還付が受けられるEU域内での買い物を増やし始めている。

業界は、免税措置が不在のままではホテルやレストラン、タクシー、美術館、劇場を含む観光業界全体に影響が及ぶと訴える。

これに対して政府は、旅行者は購入品を直接海外の住所に送れば今でも免税を享受できると主張。免税措置の廃止は、観光業に大きな影響は及ぼさないとの評価結果に基づき、税収を増やすために実施した経緯があると説明している。

<オウンゴール>

英国最大の高級小売りブランド、バーバーリーは昨年、VATの規定が原因でロンドンは他の欧州都市に負けつつあると警鐘を鳴らした。ハンドバッグのマルベリーは先月、目抜き通りボンド・ストリートの店舗を閉鎖する際、免税措置の廃止を主な要因に挙げた。

600社が所属する業界団体ニュー・ウエスト・エンド・カンパニーのコミュニケーション担当ディレクター、サラ・ジャコネッリ氏は、英国は盛大なオウンゴールを決めたと手厳しい。「欧州大陸に行けば20%値引きされるというのに、行かない手があるだろうか」と話す。

グローバルブルーのデータでは、バーレーン、クウェート、オマーン、カタール、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)といった湾岸諸国からの旅行客による買い物支出は、2019年水準の65%にしか戻っていない。これに対し、フランスは19年比で198%、イタリアは166%、スペインは158%に増えている。

2019年に欧州を訪れた中国人旅行客1万人を対象にグローバルブルーが実施した調査でも、英国の魅力が衰えていることが示された。これは将来に向けてひときわ心配な兆候だ。

調査によると、19年時点で英国は欧州の大国の中でフランスに次いで最も人気の高い旅行先だった。しかし、現在は英国旅行を計画していると答えた割合が42%と19年の70%から減り、スペイン、イタリア、ドイツの割合が増えている。

メドウェイ氏は「中国人はこれまで常に最も価格に敏感だったため、一番注視していくべき重要な層になるだろう」と指摘。「だからこそ免税は、彼らにとって非常に重要だ。そして、わが国は欧州で免税を提供していない唯一の国になってしまった」と語った。

ハロッズのマイケル・ウォード総支配人は、何も行動を起こさなければロンドンのホテルやレストランにも影響が広がるとの懸念を示した。これらの店では既に外国人客の不在ぶりが目立っているという。

カドガンのヒュー・シーボーン最高経営責任者(CEO)は「海外旅行の促進に注力すべき時だというのに、われわれは近隣EU都市に対して明確かつ不要なハンデを背負っている」と訴えた。

中国から来たハン・ヘンさん(22)と友人らは7日、ショッピング街ニュー・ボンド・ストリートで買い物をしていた。ほとんど両親のお金で買い物をしているため、これまではVATについて考えたことがなかったヘンさんだが「フランスに行くために、もっとお金を残しておこうかな」と語った。

(James Davey記者、 Sarah Young記者)

ロイター
Copyright (C) 2023 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア凍結資産活用、ベルギーがEUに「リスク分担」

ワールド

台湾国防部長、双十節後の中国軍事演習に警戒

ワールド

台湾、ロシアエネルギー制裁強化に協力表明 NGOの

ビジネス

当面は米経済など点検、見通し実現していけば利上げ=
MAGAZINE
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
2025年10月 7日号(9/30発売)

投手復帰のシーズンもプレーオフに進出。二刀流の復活劇をアメリカはどう見たか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 2
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最悪」の下落リスク
  • 3
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 4
    「人類の起源」の定説が覆る大発見...100万年前の頭…
  • 5
    イスラエルのおぞましい野望「ガザ再編」は「1本の論…
  • 6
    「元は恐竜だったのにね...」行動が「完全に人間化」…
  • 7
    1日1000人が「ミリオネア」に...でも豪邸もヨットも…
  • 8
    MITの地球化学者の研究により「地球初の動物」が判明…
  • 9
    女性兵士、花魁、ふんどし男......中国映画「731」が…
  • 10
    【クイズ】1位はアメリカ...世界で2番目に「航空機・…
  • 1
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 2
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 3
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び出した父親が見つけた「犯人の正体」にSNS爆笑
  • 4
    ウクライナにドローンを送り込むのはロシアだけでは…
  • 5
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 6
    こんな場面は子連れ客に気をつかうべき! 母親が「怒…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「がん」になる人の割合が高い国…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    高校アメフトの試合中に「あまりに悪質なプレー」...…
  • 10
    虫刺されに見える? 足首の「謎の灰色の傷」の中から…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中