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焦点:日銀総裁、長期金利ゼロ%の維持強調 期待上昇狙い持久戦

2017年03月24日(金)17時52分

 3月24日、黒田東彦日銀総裁は都内で行われた「ロイター・ニュースメーカー」で講演と質疑を行い、「ゼロ%程度」としている長期金利の現在の誘導目標を粘り強く続けていく姿勢を鮮明にした(2017年 ロイター/Toru Hanai)

[東京 24日 ロイター] - 黒田東彦日銀総裁は24日、都内で行われた「ロイター・ニュースメーカー」で講演と質疑を行い、「ゼロ%程度」としている長期金利の現在の誘導目標を粘り強く続けていく姿勢を鮮明にした。

当面は、海外金利やエネルギー価格の上昇に伴う国内金利の上昇圧力を力ずくで押さえつけ、緩和効果を強めることでインフレ期待の高まりを待つ戦略といえそうだ。

<長期金利目標、金融面からも上げる理由ない>

「現時点において、金融緩和度合いを緩める理由はない」──。総裁は講演と質疑の中で何度も繰り返した。

YCC政策を導入して以降、世界経済の持ち直しや、トランプ政権の経済政策に対する期待、米連邦準備理事会(FRB)の利上げ路線などを背景に、世界的な金利上昇圧力の高まりという大きな局面変化が顕在化。市場の一部に早期の長期金利目標引き上げ観測がくすぶっていた。この日の総裁の発言は、こうした「引き上げ観測」を強くけん制した格好だ。

今回の講演は、昨年1月のマイナス金利政策から同9月のYCC政策導入に至った経緯を解説し、現時点で長期金利目標の引き上げに慎重な理由を経済・物価情勢と金融情勢に分けて説明したのが特徴。

経済・物価については「2%の物価安定目標になお距離がある」とし、「経済・物価のいずれについても下振れリスクの方が大きい」と、先行きに慎重な見方を示した。

他方、YCC政策は、マイナス金利政策の導入によって想定以上にフラット化したイールドカーブが保険・年金の資金運用や、預貸金利ざやの縮小による銀行の収益減少という悪影響を回避することが狙いの1つ。

金融界には長期金利目標引き上げへの期待感が根強いが、総裁はYCC政策の導入によって超長期金利が昨年9月よりも上昇したと述べ「保険や年金等の運用環境は、いく分改善している」と指摘した。

銀行収益についても、影響の大きい中短期金利が引き続きマイナス圏にあり「預貸金利ざやの縮小が続いている」としたが、「銀行は積極的な貸出態度を維持している。これまでのところ金融仲介機能が低下していることはない」と断言した。

経済・物価情勢、金融情勢のいずれにおいても、長期金利目標の引き上げを検討する状況にはないと強調することで、長期金利「ゼロ%程度」を粘り強く続けていく姿勢を示した。

<世界経済の好転を生かす局面>

もっとも、日銀が2017年度の消費者物価(除く生鮮食品、コアCPI)の前年比上昇率を平均で1.5%(政策委員の大勢見通しの中央値)と見通す中で、シナリオ通りに経済・物価情勢が改善すれば、17年度内にもコアCPIは2%に近づく可能性がある。

総裁はシナリオに沿って経済・物価情勢が改善した場合の長期金利目標の引き上げのタイミングについて問われたが、明確な回答はなかった。

強気の物価見通しを示しつつ、早期の長期金利目標の引き上げ観測の「芽」が出てくるのをここでも警戒したとみられる。

一方で総裁は、世界経済について「2016年前半がボトムだった。成長のモメンタムは着実に高まっている」と楽観視するとともに、今は「現状のイールドカーブを維持し、世界的な経済情勢の好転を生かしていくべき局面」と語った。

世界経済が上向きであれば、外需の拡大が見込まれる。そこで強力な緩和効果を維持すれば、経済の自律的なメカニズムが刺激され、インフレ期待の引き上げにつながるとの期待感をこの日の講演と質疑の中で、総裁は強くにじませた。

足元では「予想物価上昇率がなかなか上がらない傾向にある」とし、「特に中長期的な予想物価上昇率の動向には注意が必要」との認識を表明しており、今のYCC政策が軌道に乗って、景気拡大とインフレ期待が、あいまって上がっていくのが理想のシナリオのようだ。

ただ、円安や原油価格上昇の効果だけで物価が上がるようなら、実質所得の伸び悩みと連動し、需要の鈍化から物価の上昇率が減速するリスクシナリオもあり得る。

日銀は当面、長期金利をゼロ%程度に抑制し、海外からの追い風を緩和強化とインフレ期待の改善につなげていく持久戦に入ったといえそうだ。

(伊藤純夫 編集:田巻一彦)

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