ニュース速報

ビジネス

アングル:政府内に財政拡大の声、G20追い風 子育て支援など焦点

2016年02月29日(月)16時25分

 2月29日、20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議の声明文に「政策総動員」が盛り込まれ、余力のある国の財政出動が望ましいとのメッセージが出た。写真は上海で25日撮影(2016年 ロイター/Aly Song)

[東京 29日 ロイター] - 20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議の声明文に「政策総動員」が盛り込まれ、余力のある国の財政出動が望ましいとのメッセージが出た。G20と歩調を合わせるかのように、日本政府内にはG20など国際的な動向を背景に、財政拡大を進めるべきとの声が広がっている。

具体的には今春をめどに公表予定である税収増を活用した子育て支援を中心に、増税対策も含めた相当規模の経済対策を打ち出す準備を進めている。

<G20声明利用の思惑>

G20声明に「あらゆる政策動員」が明記された。すでに政府部内では経済官庁を中心に「国際協調」への貢献を旗印に早期に実現可能な政策を実行するべきとの方向で動き始めていた。

複数の関係筋によると、安倍晋三首相の周辺では、今回のG20における討議の流れを活用して、抵抗の強い政策の追い風にしようと布石を打っていたという。

実際、安倍首相は2月18日の経済財政諮問会議で「G7諸国等との国際連携を深め、世界経済のさらなる成長と市場の安定を図っていく」と発言。その後の講演などにおいても同様の発言を繰り返すようになっていた。

このテーマに関連し、諮問会議では伊藤元重・東京大学教授など民間議員が、中国などの新興国が世界経済をけん引する構造が変化したため先進国が連携する必要性を指摘した。

高橋進・日本総研理事長も諮問会議で、G20だけでなく、G7などで日本として必要ならば機動的に対応するというメッセージを出すことや成長戦略強化、内需体質強じん化への発信を首相に迫った。

<歳出目安撤廃の声>

政府内に財政拡張を指示する声が広がり出した背景には、2つの要因がある。1つは年初来の円高・株安進展だ。足元で日経平均<.N225>は1万6000円台を回復したものの、ドル/円は企業の想定レートの115円を下回って推移。企業や個人のマインドを冷やしている。

また、昨年来の原油安や円安で膨らんだ企業収益が、賃上げから個人消費の拡大に波及し外需が弱くなっても着実に成長を果たす好循環に入らず、一部の政府関係者は懸念を深めている。

そこで、政府内では年明けから財政出動に向けた水面下での検討が始まった。まず、見直しのターゲットになったのが、「一般歳出水準の目安」だ。

昨年6月に決まった「経済・財政再生計画」で「これまで3年間の実質的な総額の増加が1.6兆円程度となっていること、経済物価動向等を踏まえて、その基調を18年度まで継続させていく」ことが記された。

複数の政府関係者は「歳出目安に縛られていては何の対策も打てない」とし、新たな政策展開のため、最低限守るべき財政の目安として、歳出増加枠ではなく20年度基礎的財政収支の黒字化に絞る方針が浮上した。

歳出の足かせをはずせば、経済官庁を中心にGDP600兆円経済に向けた消費喚起策や賃金・所得増加対策、「一億総活躍社会実現」のための少子化対策・介護離職ゼロを目指した政策に集中し、財政支出を拡大する方策が議論しやすくなる。

必要な財源は税収増などで賄い、その際に年度1.6兆円の歳出目安は取り払うシナリオが水面下で議論されている。

<16年度補正、早くても秋>

ただ、こうした意見が政権内で広く受け入れられているわけではない。財務省のほか諮問会議の中からも「既存の歳出枠組みを崩してはならない」との意見も根強く、5月連休明けまでに財源をきちんと決めるべきとの意見も出ている。

また、与党内からは日程的に通常国会での16年度補正予算案の審議はあり得ないとの声も出ている。もしその見通し通りに展開するなら、日本政府の財政拡張の具体案は、夏の参院選後の臨時国会まで持ち越されることになる。

このシナリオでは、それまでに世界的な経済危機が発生すれば、金融政策で対応する以外に手段はないことになる。

世界経済の動向をにらみながら、政府・与党内で財政拡大の具体策検討が、春の到来とともに進みそうだ。

(中川泉 取材協力:梅川崇 編集:田巻一彦)

ロイター
Copyright (C) 2016 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ナワリヌイ氏殺害、プーチン氏は命じず 米当局分析=

ビジネス

アングル:最高値のビットコイン、環境負荷論争も白熱

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ」「ゲーム」「へのへのもへじ」

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 6

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 7

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中