コラム

ギリシャが抱える構造的問題──経済危機の次は隣国との小競り合い

2018年08月14日(火)13時30分

ギリシャで反EUの風潮が強まったのは、こうした流れの中でのことだ。ポピュリズムは右派と左派の双方で台頭した。長いことくすぶっていたマケドニアとトルコとの間の火種は、ナショナリストにとって勢力拡大に使える格好の道具になった。

しかし、現在のギリシャの状況は少しずつ改善しているようにみえる。

GDPは過去1年で2.3%の伸びを見せ、失業率は約21%に低下。今年6月にはユーロ圏と3回目にして「最後」となる10億ユーロの追加支援策に合意した。こうしてギリシャはこの8月、金融支援から8年ぶりに「卒業」し、負債は今後30年で返済できる見込みだ。

マケドニアについても風向きはいくらか改善しており、9月末にはマケドニアが国名を「北マケドニア共和国」に変更する是非を問う国民投票を実施する。昨年はトルコのエルドアン大統領が、同国の大統領としては65年ぶりにギリシャを訪れた。

しかし、火種はまだ消えていない。ユーロ圏は今もギリシャに、60年まで2.2%の成長率維持を義務付けている。

来年、ギリシャは議会選挙を控えている。経済が改善されながらも困窮が続く状況では、これからも国民の不満が反ユーロ圏政策という形で表面化していくだろう。

経済の改善を帳消しにしたり、反EU感情に火を付けるには、新たな危機が1つあれば十分だ。マケドニアかトルコと衝突する政治危機か? それともアメリカ主導の世界貿易戦争という経済危機か?

しかし国民の最大の関心は、景気低迷から脱することにあるはずだ。

<本誌2018年8月14&21日号掲載>

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グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

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