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定数削減はポピュリズムだ
議員が減るということは、行政に対するチェック能力が減少するということでもある。維新の会の横山英幸大阪市長は、議員定数の削減を推進することを「口だけじゃない覚悟の政治。維新の真骨頂」だとSNSでアピールしている。だが行政の長たる市長と市議会は制度上緊張関係にあり、議会の力を削ぐような政策の推進を市長が誇らしげに語るのは望ましくない。
議員定数削減への支持は政治不信の現れ
4月30日の朝日新聞記事によれば、日本の有権者の過半数が政治に対して不信感を持っているという。同じく、5月6日に掲載された朝日新聞が東京大学と合同で行った調査結果によれば多数の有権者が自分は政治から疎外されていると感じており、8割以上の有権者が民衆の意見を直接的に代表するリーダーを求めているという。
議員削減への支持も、こうした心情と同根だといえるだろう。議会制民主主義は信頼されておらず、有権者は政治の閉塞感を打破するような強いリーダーの出現を求めている。議会では重要な議論は何一つ行われておらず、税金を無駄に使っているだけだと思われているのだ。つまり議員定数削減は、具体的なメリットがあるから支持されているというよりは、既成政党への懲罰として支持されている。
このような議会制への不信と強いリーダー出現の待望は、歴史上繰り返されてきた。ドイツの法学者カール・シュミットは1920年代、議会制の本質を「永遠のおしゃべり」と呼び、議会は決断能力を欠いていると論じた。
それに比べてシュミットが評価したのは、「強いリーダー」のムッソリーニ率いるイタリア・ファシズムだった。議員がそれぞれの有権者の利害を代表するに過ぎないのに対して指導者は民衆を直接的に代表する。指導者は決断をすることができる。民衆はその決断に対して議論ではなく、イエスかノーで判断する。議会主義の後に来る体制はこのようなものになるだろうとシュミットは予想した。
貴族制から徐々に進化して成立した議会制を特権階級の遊戯とみなす考え方も当時から存在していた。第一次世界大戦の後遺症や世界恐慌などの影響もあり、政治不安が続くと、ヨーロッパ諸国は次々と議会制を捨てていくようになる。
しかし、議会制を否定して成立した体制は、その全てがファシズムあるいは何らかの権威主義体制に落ち着くことになった。ヨーロッパはこの流れを止められぬまま、第二次世界大戦に突入していく。
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