コラム

過去10年で最多のスギ花粉? 本格化前に知っておきたい花粉症の歴史と最新治療法

2023年01月24日(火)11時20分
スギ花粉

スギ花粉は戦後数十年で多量に飛散するようになった(写真はイメージです) gyro-iStock

<花粉症の歴史は、紀元前1800年代のバビロニアの書物にまで遡ることができる。日本で初めて報告されたのは? スギ花粉症が急に増えた理由は? 歴史と最新の治療法、花粉症と食の関わりについて紹介する>

冬も半ばを過ぎると、スギ花粉の時期が近づきます。花粉症の約7割は、スギ花粉が原因と推察されています。

例年は2月上旬に九州から飛散が始まりますが、今年は1月中旬でもすでに全国の花粉症の人の3割以上が「花粉を感じている」という調査結果が発表されました(1月17日~18日、ウェザーニュース調べ。全国6957件を対象)。

23年春のスギ花粉の飛散量は、本州の大部分で過去10年最多になる恐れがあるといいます。

スギ花粉の量は、花粉を飛ばす雄花の量によって左右されます。環境省が22年11月から12月に、北海道や沖縄などを除く34都府県で花粉生産能力のある林齢26~60年のスギ林で雄花の花芽を調査した結果、関東、北陸、近畿、中国地方などで過去10年の最大値が観測されました。22年の夏は6月から気温が高く、日照時間が長かったことから、スギ雄花の量が増えたと考えられています。

花粉症の季節が本格化する前に、歴史や最新の治療法、「花粉症と食」に関するトリビアを紹介します。

花粉症の歴史と日本の研究

「昔は花粉症がなかった」という話を聞いたことがある人は多いかもしれません。

けれど、花粉症の歴史は、紀元前1800年代のバビロニア(現在のイラク南部)の書物に花粉症のような症状が記載されていることに遡ります。紀元前460年頃には「医学の父」とも呼ばれる古代ギリシャのヒポクラテスが、「体質と季節と風が関係している病気」を記録に残しており、花粉症を指していると考えられています。紀元前100年頃の古代中国の書物にも、「春になるとくしゃみ、鼻水、鼻づまりが増える」と書かれています。

季節性アレルギー鼻炎と花粉が初めて結び付けられたのは、19世紀です。当時、イギリスの農民は、牧草の刈り取り時期になると喉の痛みやくしゃみ、鼻水などの症状に悩まされていました。イギリスの医師ジョン・ボストックは1819年、この症状は牧草の干し草と接触することによって発症することから「hay fever(枯草熱)」と名付けて症例報告をしました。

1873年、イギリスの医師チャールズ・ブラックレイは「枯草熱あるいは枯草喘息の病因の実証的研究」を発表し、枯草熱の原因はイネ科植物カモガヤの花粉であることを突き止めました。その後、枯草熱は「ポリノシス(花粉症)」と呼ばれるようになりました。

日本では1961年に、東大の荒木英斉博士によって初の花粉症患者が学会報告されました。原因はブタクサです。

ブタクサは、もともとは日本にはなかった植物です。第二次世界大戦後しばらくの間、日本を統治していたアメリカ進駐軍によって、日本に持ち込まれました。海外から持ち込まれた植物が、十数年で爆発的に繁殖して多量の花粉を飛散させるようになり、日本で初めて「花粉症」が認識されたのです。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日経平均は4日続落、米エヌビディア決算控え売買交錯

ワールド

ウクライナ西部で爆発、ロシアがミサイル・無人機攻撃

ビジネス

東京海上、発行済み株式の4.2%上限に自社株買い 

ビジネス

中国人民銀、最優遇貸出金利据え置く見通し 6カ月連
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 10
    「嘘つき」「極右」 嫌われる参政党が、それでも熱狂…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story