コラム

選挙の日に歩いた桜咲く渓谷と平成の町

2019年04月23日(火)14時00分

◆「山梨のスペースコロニー」

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国道20号に現れた「コモアしおつ」の看板=山梨県上野原市

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下界とニュータウンをつなぐ全長200mのエスカレーターが通る「コモアブリッジ」=山梨県上野原市

しばらくローカルな気分に浸っていたところ、四方津(しおつ)駅の手前で都会に引き戻されるような地名が国道20号の看板に現れた。実は、以前からその「コモアしおつ」はとても気になっていて、初見ではない。わざわざ訪問して町をぐるりと歩いたこともある。国道の上の丘に広がる一大ニュータウンで、麓の中央本線四方津駅とは、エスカレーターとケーブルカーのように斜めに上がっていくエレベーターが通る全長200mのSFチックなチューブでつながっている。自分と同じガンダム世代にしか通じないかもしれないが、僕は密かに、『山梨のサイド7(アニメ『機動戦士ガンダム』に出てくるスペースコロニーの名称)』と呼んでいる。

「コモアしおつ」は、積水ハウスがバブル期後半に開発したニュータウンで、1991年から販売開始されている。80万平方メートルの敷地には、コモアしおつ1〜3丁目と、独自の地番も与えられている。開発から間もなくバブルが崩壊したため低迷した時期もあったようで、前に来た時は、リーマンショックや東日本大震災の影響も冷めやらぬ景気のどん底にあった頃でもあり、やや寂れた印象を受けた。

しかし、最近は半年に1件くらいのペースで物件が売れていて、活気を取り戻しているようだ。総戸数も最新の情報で1,413戸と、前に来た頃よりもだいぶ増えている。とはいえ、今の時代のことだから、ここに来るまでに通過してきた世田谷の住宅街や多摩ニュータウンのように、高齢化がじわじわと進んでいる様子も予想していた。しかし、エレベーターに乗って実際に街に降り立つと、小さな子供がいる若いファミリー層の姿があちこちに見られた。後に街を降りてから出会った地元の老人に聞いた話によれば、開発当初は都会からの移住者がほとんどだったが、今は周辺の既存市街地や山村からの若い世代の"プチ移住"も多いのだという。

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都会的な雰囲気のコモアしおつの町並み=山梨県上野原市

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背景に山が見えるニュータウン=山梨県上野原市「コモアしおつ」

◆親切な老人と山村の優しい光景

バブル期の産物の多くは、今では寂れていて哀愁を感じることも多いが、この平成初期生まれのニュータウンは今のところ、少なくとも、自分のストリート・スナップ写真家としての街に対する嗅覚を信じれば、うまく新しい時代へのバトンタッチができているように感じた。そこを歩くのは、「衰退期」という言葉で語られる今の時代の日本にあって、明るい気分になれるつかの間の白昼夢のような時間でもあった。

コモアしおつの標高は340mで、333mの東京タワーよりもわずかに高い。裏口にあたるワインディング・ロードを徒歩で下り、渓谷沿いの山道を抜けて国道20号に戻る。しばらく国道の狭い歩道を歩いていると、上野原市から大月市に入った所で一台の軽トラックが止まり、老人が降りてきた。僕が登山者のような格好でカメラを持っていたので、大月の里山からの富士山の絶景スポットを教えようと思ったのだという。

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大月の富士山絶景スポットを網羅したパンフレットをくれた男性=山梨県大月市

老人は、地元の写真家による美しい富士山の写真がたくさん載ったパンフレットを手渡してくれた。もともとは藤野の出身だといい、それからしばらく、僕らが歩いてきたルートにまつわる昭和から現在までのよもやま話をしてくれた。先に書いた「コモアしおつ」の人口構成も、その中で出た話だ。

老人と別れた後、桂川対岸の山村を通る裏道に戻った。斜面に点在するこの地域独特の石垣がある村々に来ると、ニュータウンとは対照的な日本の原風景に心が安らぐ。地図にかろうじて載っているような小道を辿り、再び桂川を渡って国道に復帰。夕方5時、ちょうど中央本線の梁川駅が見えてきたので、本日のゴールとした。選挙カーの声は、駅で現地解散する直前まで山里に鳴り響いていた。

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この地域独特の石垣がある桂川対岸の山村=山梨県大月市

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春の山村の葱畑=山梨県大月市

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上流部に差し掛かり、桂川もスタート地点よりも渓谷の様相を深めてきた=山梨県大月市

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今回歩いた藤野駅--梁川駅のコース:YAMAP活動日記

今回の行程:藤野駅--梁川駅(https://yamap.com/activities/3381024
・歩行距離=15.7km
・歩行時間=8時間5分
・高低差=178m
・累積上り/下り=559m/479m

プロフィール

内村コースケ

1970年ビルマ(現ミャンマー)生まれ。外交官だった父の転勤で少年時代をカナダとイギリスで過ごした。早稲田大学第一文学部卒業後、中日新聞の地方支局と社会部で記者を経験。かねてから希望していたカメラマン職に転じ、同東京本社(東京新聞)写真部でアフガン紛争などの撮影に従事した。2005年よりフリーとなり、「書けて撮れる」フォトジャーナリストとして、海外ニュース、帰国子女教育、地方移住、ペット・動物愛護問題などをテーマに執筆・撮影活動をしている。日本写真家協会(JPS)会員

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