コラム

戦争をリアルにイメージできない「幸運」な日本に、イラン出身者が伝えたいこと

2022年03月10日(木)17時20分
石野シャハラン
戦争反対デモ

DAVID MAREUILーANADOLU AGENCY/GETTY IMAGES

<長く平和を享受してきた日本人が、ウクライナのような戦場の悲惨さや理不尽さを実感できないのは当然。ただ、だからこそ平和が続くよう努力する必要がある>

しばらく前に、筆者と同じくイラン出身で同年代の女性と日本人を交え、それぞれの子ども時代の話をしたことがあった。日本の人は当時はやったアニメや消しゴムの話をしていたが、イラン出身の彼女は私にボソッと「私たち偉かったよね、頑張ってたよね」と言った。「小学生の頃1年間くらい学校が閉鎖されて、ずっとテレビの授業を見ながら家で勉強していたじゃない? サイレンが鳴ると防空壕に避難して。覚えているでしょ?」

彼女にそう言われるまで、私は長い間その頃のことを思い出すこともなかったが、確かにそういう生活だった。私が小学校低学年の頃、生まれ育った首都テヘランはイラン・イラク戦争の真っただ中だった。

子どもだったので、つらかったとか怖かったとかいう記憶はあまり残っていないというか、そういうふうに思う余裕がないほど追い詰められた生活だった。ただ、同級生が避難していた地下室の真上に爆弾が落ちて、家族ともども焼け死んでしまって悲しかったことを強烈に覚えている。

ロシアがウクライナに侵攻してから、祖国を守るため銃を持って戦いに志願する若者や中年のウクライナ人の姿が報道されている。

それを見た私の親しい日本人は「英雄的、美しい生き方で涙が出る。戦い抜いて生きて戻ってきてほしいと思う。でも心の底では理解できない。戦争には命をささげる価値があるのか? 自分には命を懸けて戦うような何かがあるのか? だって日本では子どもが先に死んだら親が悲しむし、何が何でも逃げなきゃと思う。でもウクライナでは戦うことが英雄視される、逃げられない。それってキツいよね」と本音を漏らした。

他国が攻めてくることが現実にあり得る

ウクライナと同様、イランも大国がせめぎ合う場所に位置する。今日は平和でも、明日の朝起きたら自分の住む街が他国の戦車部隊に包囲されている、ということが起こり得る。そうなったら戦える年齢の者は全員銃を渡されて戦わなければならない。あの辺りの人々はそれが当たり前だと思って暮らしている。そのために徴兵制度があり、青年は平時でも入隊して銃の扱い方を覚え、戦い方をたたき込まれる。

私も経験したが、兵役を終えたことを証明するカードの裏にも「このカードは平和な時のみ有効であり、戦争およびその他の動員時にどのように奉仕するかはその際に決定される」と書かれている。つまり、兵役を終えた人もずっと兵士であると認識されていて、有事にはいつでも招集されるから覚悟していなさい、ということである。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ヘッジファンド、3月は過去4年で最悪のドローダウン

ワールド

韓国CPI、3月は前年比2.2%上昇 予想下回る

ワールド

イラン戦争の目標「達成間近」、トランプ氏が演説 2

ビジネス

インテル、サンバノバへの追加投資計画 タンCEOが
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
2026年4月 7日号(3/31発売)

国際基準の情報開示や多様な認証制度──本当の「持続可能性」が問われる時代へ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    中国がイラン戦争最大の被害者? 習近平の誤った経済政策と石油危機が奏でる「最悪なハーモニー」
  • 3
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イラン恐怖」の正体
  • 4
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 5
    北京に代わる新都市構想は絵に描いた餅のまま...大幅…
  • 6
    人口減の自治体を救う「小さな浄水場」──誰もが常に…
  • 7
    年金は何歳からもらうのが得? 男女で違う「最適な受…
  • 8
    カンヌ映画祭最高賞『シンプル・アクシデント』独占…
  • 9
    「え、なんで?」フライト中に操縦席の窓が覆われて…
  • 10
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 3
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 4
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 5
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 6
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 7
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 8
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 9
    オランウータンに「15分間ロックオン」された女性のS…
  • 10
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 10
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story