コラム

海外でも大きく報じられた「岩波ホール」閉館...ミニシアターを救えない悲しさ

2022年02月17日(木)17時07分
西村カリン
映画館

peych_p-iStock

<50年以上の歴史を持つ「岩波ホール」が閉館を発表。コロナ禍による観客減少は避けられなかったが、文化を支える施設を救う道はないものか>

どこまでコロナ禍の悪影響が及ぶのか、誰にも分からないけれど、既に多くの分野が大きなダメージを被っていることは間違いない。その1つで、日本の映画ファンだけでなく、国外にまでショックを広げたニュースがある。

日本のミニシアターの先駆けとして1968年に開館し、国内外の名作を紹介してきた東京・神保町の岩波ホールが7月29日に閉館するという発表だ。

私の母国であるフランスでも大手新聞が1ページの記事を、文化雑誌が2ページのインタビューを掲載するなど大きなニュースになった。

「50周年の時に、みんながお祝いしてくれた。『こんな小さいところは続きませんよ』と最初の頃に言われたが、うまくいった。ただこの2年間ぐらいは本当に大変で、お客さんがほとんど来なくてどうしようと思っていた。若い観客を呼ぶことができなかったと指摘されたが、でも若者はあまり映画を見ないような気がする」と、岩波ホールの支配人の岩波律子さんは言う。

岩波ホールは岩波不動産が運営している。最終的な決定を下したのも岩波不動産だ。

「私たちにとってはショックだった。ファンやジャーナリスト、みんなもショックだった。涙が出たという人もいる。自分が判断するなら、正直言って続けられるかどうか分からない。閉館を決断した主な理由は新型コロナウイルスによる観客の減少だった」と、岩波さんは説明する。

閉館以外の道はなかったのか? 「いったん閉めて、その後何らかの形で新しいことができればと思うが、ここまできてしまうと難しいかもしれない。インターネットのクラウドファンディング活動で一時的にお金を集めて解決できる問題ではない」

国は映画や芝居を大事にしていない?

岩波ホールをつくった律子さんの父である岩波雄二郎氏(当時は岩波書店社長)は「お金のことは心配しないでください。いい活動をしてください」と言っていたという。しかし、もうメセナのような活動はできない状況と時代になったと、律子さんはいま強く感じている。

20年以上前から日本に住んでいる私は、この国が映画や芝居を大事にしないような気がしてならない。

フランスで、映画は伝統的な芸術(建築、彫刻、絵画、音楽、詩、舞踊)に次ぐ「Septième art(7番目の芸術)」と呼ばれ、尊重されている。

そして映画業界を支援するための「国立映画映像センター(CNC)」という機関がある。CNCは小さな映画館の設備投資支援も担当している。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米財務長官、ロシア凍結資産活用の前倒し提起へ 来週

ビジネス

マスク氏報酬と登記移転巡る株主投票、容易でない─テ

ビジネス

ブラックロック、AI投資で各国と協議 民間誘致も=

ビジネス

独VW、仏ルノーとの廉価版EV共同開発協議から撤退
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 2

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 3

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 4

    無名コメディアンによる狂気ドラマ『私のトナカイち…

  • 5

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 6

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 7

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 8

    他人から非難された...そんな時「釈迦牟尼の出した答…

  • 9

    「香りを嗅ぐだけで血管が若返る」毎朝のコーヒーに…

  • 10

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    地下室の排水口の中に、無数の触手を蠢かせる「謎の…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story