酒を飲むことが「仕事」だった時代があった、「酔わない身体は努力次第」だった
アルコールは反生産的でも生産的でもない液体に
接待の多かった父が、毎日のように深夜に泥酔して帰宅し、午前3時に大声でヘタな歌を歌ったりしていたからである。よく通報されなかったなと、思い出しただけでも不思議に感じる。
そういえば五木寛之氏の近作『昭和の夢は夜ひらく』(新潮新書)にも、こんな一節があった。
「オレの盃が受けられんのか」
と、ヤクザ映画まがいのセリフを口にする先輩作家もいたのである。
呑めない酒を無理して飲み、ヘドを吐いて倒れるというのが作家の本領だ、みたいな古い考えに固執する気風も、当時はあった。
しかし、時代は変わった。
著者は、世紀の変わり目から街の酔っぱらいが目立たなくなったと述べているが、私が「飲める人が減ったなー」と感じるようになったのも、まさにその頃のことだ。
そして「ノンアル」の人気が定着した今、酒とその飲み方に関する価値観はさらに変わりつつある。
今日の都市勤労者たちにとって、アルコールは、反生産的な液体でも、生産的な液体でもない、たんなる液体へと、少しずつ変貌しつつある。(188ページより)
それは、決して悪いことではないと感じる。
若い頃は玉川上水の脇で酔って倒れて眠ってしまい、目が覚めたら朝だったなどというお粗末をやらかしていた私も、今ではノンアルコールビールと数杯の赤ワインで満足できるようになっている。
もちろん酔えば楽しいが、だからといって泥酔する必要もない。時代とともに、そんな価値観が一般的なものになったのかもしれない。

『「酔っぱらい」たちの日本近代
――酒とアルコールの社会史』
右田裕規・著
角川新書
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[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。他に、ライフハッカー[日本版]、東洋経済オンライン、サライ.jpなどで連載を持つほか、「ダ・ヴィンチ」などにも寄稿。『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)、『この世界の中心は、中央線なのかもしれない。』( 辰巳出版)など著作多数。2020年6月、日本一ネットにより「書評執筆本数日本一」に認定された。
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