現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ「日本のお笑い」に挑むのか?

右:いぜんさんお気に入りの小説の一部。左から、現在読んでいる『マイクロスパイ・アンサンブル』(伊坂幸太郎著、中国語翻訳版)、『自転しながら好転する』(山本文緒著)、『カラフル』(森絵都著)
――それから、いぜんさんのブレイクのきっかけにもなった「〇〇より、〇〇ねえよ」という決め台詞はどうやって生まれたのですか?
いぜん:実は、もともと中国を前面に出したネタはやりたくなかったんです。でも、私の片言の日本語や日本文化への理解度を客観的に見たとき、中国人女性であることを強みにしようと思いました。聞き取りやすさも考えて、ネタは短くてインパクトのある言葉がいいと考えました。
中国語では肯定や否定が文の前半に来るので、単語選びが笑いの鍵になります。一方、日本語はそれが文の後半に来る。単語より言い方や言葉遣いを工夫したらどうだろうと、自分なりに分析した結果、生まれたのがこの台詞でした。
とはいえ、実際使うのはすごく勇気がいりました。こんな乱暴な言葉遣いは『標準日本語』(※3)には書いてありませんからね(笑)。
(※3)標準日本語...『中日交流標準日本語』シリーズ(光村図書、人民教育出版社編)のこと。中等教育機関等においてゼロから日本語を学習する人々を対象とするなど、日本語学習の入門書としてロングセラーとなっている
――ネタづくりには言葉以外にも、日本文化や社会背景の理解も必要なように感じます。
いぜん: そう思います。日本人の飲み会で、隣の人の注文を真似して「俺も生(生ビール)」と言ったら、周りの人が笑ってくれて。このとき、これは外国人が言うと面白くなるほど、こなれた表現なんだと気づきました。
サザエさん、スラムダンク、港区女子など、日本で特定の世代に共有されている言葉の背景も、日本で過ごした方なら当然知っている言葉の背景も、来日当初は全くわかりませんでした。
でも、こうした言葉の向こうにあるイメージを理解することで、日本で暮らす人々の共感を得られる共通言語になるわけです。言葉を覚えるだけでは、わからない部分ですよね。





