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セックスツーリズム

日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告

A rare, direct warning from Japan signals a shift in the fight against child sex tourism in Asia

2025年7月30日(水)20時05分
ミン・ガオ(スウェーデン・ルンド大学 東アジア研究所 リサーチフェロー)
タイのパタヤのバーの女性たち

タイのビーチリゾート、パタヤのバー。性産業の一大拠点と言われてきた(写真は2006年) REUTERS/Sukree Sukplang (THAILAND)

<在ラオス日本大使館が日本人男性の児童買春ツアーに警告を発した。国内外で驚くべき変容を遂げるセックスツーリズム摘発の第一歩だ>

日本の外務省と在ラオス日本大使館は、日本人男性がラオスで「児童買春」を行なっていることに対し、異例かつ直接的な警告を発した。「ラオスに渡航・滞在する際は、両国の法令を遵守し、違法行為は厳に慎むように」という注意喚起だ。

きっかけは、ラオスの首都ビエンチャンでレストランを営む日本人女性、岩竹綾子が、児童買春を自慢する日本人男性のSNS投稿を見たことだった。彼女は、政府に対応を求める署名運動を始めた。

在ラオス日本大使館が6月に日本語で発した注意喚起では、児童買春は、ラオスの法律と、国外でも適用される日本の児童買春・児童ポルノ禁止法の両方で、処罰の対象になることが明記されている。

この外交的声明は、単なる法的警告にとどまらない。東南アジアを中心に、日本人男性が「国境を越えた児童買春ツーリズム」に関わっているのではないかという疑惑を公に認めたという点でも注目すべきものだ。

また個々の犯罪行為や特定の国の問題にとどまらず、このような国際的な搾取を可能にしている歴史的、人種的、構造的不平等の再考が求められる。

性的搾取の地図が塗り替わる

アジアにおけるセックスの売買は目新しいものではない。その輪郭は時代とともに変化してきたが、根底にある意識は変わらない。人間は売り買いできるもので、財布には特権がある、という考え方だ。

日本の海外売春への関与は明治時代(1868-1912)にさかのぼる。貧しい農村地域の若い女性たち(「からゆきさん」と呼ばれた)が、英領マラヤ(当時)の港町や中国、太平洋諸島の売春宿で性産業に従事させられた。

かつては貧困が女性を海外へと追いやっていたが、20世紀後半になると、戦後の経済成長で豊かになった日本人男性が「性を買うために」海外へ向かうようになる。

2000年代になると、その構図は再び変化する。経済的に発展した韓国の男性が東南アジアをはじめロシアやウズベキスタンなどかつて日本人が通ったルートを辿ってセックスを買いに行くようになった。

時が経つと、その流れはさらに暗い方向に向かった。

日本と韓国の男性たちが海外、特に東南アジア、太平洋諸島、そしてモンゴルで「児童買春」の主要な顧客として台頭し始めたのだ。

アメリカ国務省によれば、日本人男性は今なお「性目的ツーリズムの重要な顧客」とされ、韓国人男性は「児童買春ツーリズムの主な需要先」とされている。

国連薬物犯罪事務所(UNODC)やその他の組織も、こうした地域における児童の性的搾取の主要な加害国として日本と韓国を挙げている。

性売買輸出国から輸入先へ

最近では、日本国内でも深刻な変化が進行しているようだ。

長引く経済停滞と円安の中、東京が「インバウンドの性目的ツーリズム」の目的地になりつつあるとの報告がある。青少年保護団体は、10代の少女や若い女性が生活のため売春に従事する地域に、外国人男性、特に中国人が訪れる事例が増加していると指摘している。

国境をまたぐこうした性の動きの背景にあるのは、文化的に特異な信念(たとえば処女性へのフェティシズムや、「若い少女と性交すると商売運が上がる」などという迷信)だけではなく、権力がある。

子どもを守る闘い

国際的な児童買春根絶キャンペーンが本格化したのは、東南アジアでの児童搾取と立ち向けうために1990年、ECPAT(ストップ子ども買春の会)が設立され頃からだ。

背景には、慢性的な貧困、法執行の不徹底、そして裕福な外国人男性の流入がある。さらに、暗号化されたプラットフォームや招待制フォーラムを通じて児童買春の取引がデジタル空間で完結する時代になり、問題はより深刻化している。

各国政府は改革を約束するが、実行にはばらつきがある。

買春者、特に外国人男性は処罰を逃れることが多い。しかし2025年4月、日本の警察庁は国際機関と連携し、オンラインで児童性的搾取に関わった111人を全国一斉に逮捕した。中には高校教員や学習塾講師も含まれていた。

この注意喚起は絶好のチャンス

今回のラオスにおける告発と、日本当局の異例の対応は、こうした構造的問題に取り組む絶好の機会だ。

性ツーリズムは真空地帯で起きているわけではない。それを可能にしているのは、発展の格差、越境の容易さ、規制の不備、そして「沈黙」だ。

今回のケースは、草の根の行動が制度を動かすことを示した。

ラオスに関する注意喚起の引き金を引いたのは政府の調査や外交スキャンダルではない。岩竹綾子という女性がSNS上で日本人男性たちが児童買春を自慢する投稿を目撃し、見て見ぬふりを「しなかった」ことだ。

彼女が署名を大使館に届けてから10日も経たずに、外務省は警告文を発表し、児童買春犯罪の法的リスクを明確に示した。

岩竹の行動は、組織悪を暴くのに政府は必ずしも必要ではないことを示した。「声を上げる覚悟」があれば十分な時もあるのだ。彼女は毎日新聞にこう語っている。

「あまりにも目に余る状況で、見て見ぬふりをできなかった」

日本が迅速に対応した点は評価できる。しかし注意喚起だけでは不十分だ。今後は国際協力を一層強化し、こうした犯罪の摘発に努めなければならない。

より踏み込んだ対応としては、アメリカの事例がある。米捜査当局はベトナム当局と連携し、同国の児童性虐待のライブ配信ネットワークに潜入。数カ月の捜査の後、娘に性的虐待を加える様子をオンデマンドで有料配信していた母親を逮捕した。

9歳の少女が救出されたこの事件は、本格的な国際的連携が大きな成果をもたらし得ることを示している。

だが、世間の注目を集める事件の陰には、語られないケースが無数に存在する。

今回のラオスの一件は、性と金、権力がいかに国境を越え、その代償を誰が支払っているのかを問い直す第一歩にすぎない。

The Conversation

Ming Gao, Research Fellow of East Asia Studies, Lund University

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.



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