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荒川河畔の原住民⑮

わが友人、ホームレス、テントに暮らす荒川の釣り名人。奇跡が起きることを祈っている

2024年12月11日(水)21時00分
文・写真:趙海成

1958年の狩野川台風で荒川が氾濫したとき、まだ小学生だった彼はちょうど荒川のほとりで釣りをしていて、河川氾濫の恐怖を目の当たりにした。しかし、その経験は少年の桂さんを驚かすどころか、荒川への愛と崇拝の気持ちを高めた。

荒川は彼に自然の威力と魅力を教えてくれた。畏敬とは何か、冒険とは何かを早くに知ることになったのだ。

アルミ缶集めは2日に1回。ホームレス生活を生きる術

桂さんは何度も私に言った。彼自身がホームレスになる道を選んだのは「冒険」であること。「あなたがどの生きる道を選んでも、未来はどうなるか予測できないが、大胆に前進すれば、自分の生活に合ったユートピアを見つけることができる」ということ。

桂さんも当初は、何か困ったことがあってホームレスの隊列に入ることになったのかもしれない。

それでも、この「人間の煉獄」(カトリックの教義で、死者の霊魂が天国に入る前に火によって罪を浄化される場所とされている)に入った後、ここには悲鳴、落胆、貧困ばかりではなく、笑い、希望、豊かさもあることを知った。

それはおそらく桂さんの幼少期からの生活環境と経験に根ざしている。

彼の特性はこの種の自然に近いホームレスの生活には向いているようだし、青年時代にはさまざまなスポーツが好きで、それによって健康な体を手に入れていた。だから劣悪な環境の試練にも耐えられるわけだ。

ホームレスとして10年の時が過ぎた。彼は自分の野外生活を整然としたものにして、さまざまなことに興味を持って毎日を過ごしていた。私から見れば、桂さんはホームレスの中で最も賢く生きている人だと思う。

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