最新記事
荒川河畔の「原住民」③

「この選択は人生の冒険」洪水リスクにさらされる荒川河川敷のホームレスたち

2024年9月11日(水)10時55分
文・写真:趙海成

あなたはあの日、岸から離れ、水がなくて弱っていたカメを拾い、川に返してやりたいと思った。一番近い道として私の家を通らなければならず、私は微笑んであなたに『どうぞ』と言った。あなたは私が親切だと思って、戻ってくると私と話をして、最終的に私たちは友達になった。冒険が私たちの縁を繋げたのだ。

このように、人は誰でも、他の人に対して親切にすると、友好的な贈り物が返ってくる。あの時、私があなたを通さなかったら、あなたは別の道を探して川に行き、戻ってきて私に話しかけてくることはない。あなたは私と通行人のようにすれ違っただけだっただろう。荒川の川辺での私たちの出会い、そして私たちが友達になって得た喜びは、お金持ちには体験できない」

荒川河川敷のホームレス

左:台風が襲来する中、防災について相談する桂さんと斉藤さん(仮名)/右:桂さんはまず自分の高級自転車を安全な場所に移動させる

助け合い人生を切り開く、そんな風潮がなくなった

桂さんと斉藤さん(仮名)の付き合いには、称賛すべき良い話がある。

2年前のある日、桂さんは荒川を上流に2~3キロ行った戸田橋まで、ホームレスの友人に会いに行き、そこで斉藤さんと知り合った。斉藤さんは当時、戸田橋の下でダンボール箱で生活していた。

桂さんはそれがあまりにも安全ではないと思い、斉藤さんにこう言った。「私の住む新荒川大橋のほうに引っ越してきてください。丈夫なテント小屋を建ててあげるから」

数日後、斉藤さんは本当に引っ越してきて、桂さんが建てた新しい家に住み始めたのだ。その後、彼らは兄弟のように親しくなった。

桂さんはこう話す。

「私が子供の頃は、何か困ったことがあれば、近所の人同士で助け合った。今はそんな風潮がなくなった。だから、今の若者にはもっと冒険が必要だ」

生活の中で勇敢に冒険し、冒険の中で懸命に生を求め、生を求める中で和やかに助け合い、共に助け合いながら新たな人生を切り開く!

人生はこうあるべきだ。桂さんは、まさにそれをやり遂げている。

桂さんと話をするだけで、私はいつも学びを得ていることに気づいた。

前に一緒に食事をしたとき、今の日本人は以前ほど礼儀正しくない、と私が愚痴をこぼしたことがある。ランニングをするとき、向こうから走ってきた人に私は挨拶をするのだが、いつも相手にしてくれない人がいる。どうして?

桂さんはこのように話した。

「人は走るとき、呼吸とペースを整えることに集中しなければなりません。この状態では、他のものに邪魔されたくないものです。それが相手があなたに返事しない理由かもしれない。お互いがただ散歩しているときだったら、挨拶をすれば、きっと返事をしてくれますよ」

ありがとう桂さん! また一つ勉強になりました。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トルコでIS戦闘員と銃撃戦、警察官3人死亡 攻撃警

ビジネス

独経済団体、半数が26年の人員削減を予想 経済危機

ワールド

中国軍、台湾周辺で実弾射撃伴う演習開始 港湾など封

ビジネス

韓国クーパン、顧客情報大量流出で11.8億ドルの補
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    「アニメである必要があった...」映画『この世界の片…
  • 9
    2026年、トランプは最大の政治的試練に直面する
  • 10
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中